第29話
きっともう会うことなんてないと思ってるんだろうな、と考えて、勝手に虚無感に襲われた。
彼女の瞳に朝も夜も映って、無防備な笑顔を向けられる男は、この世でいちばん特別な存在に違いない。どうしても、なりたい。
胸に引きつるような痛みが走る。脳幹の奥が熱い。
他の男に奪われるくらいなら、どうにかして、自分の腕の中に引き込んでしまいたい。
俺の隣には、新しい栄養ドリンクの瓶と、小さなチョコレートが残されていた。
2回目に出会ったのは、ほとんど、仕組まれたトラップに近い。
郁ちゃんは今でも偶然だと信じ切っているから、こちら側の真実を教えてあげることはないと思う。
郁ちゃんが知って喜ぶ方が本当で、それ以外はノイズに過ぎないのだから。
彼女の周りから余計な雑音を排除して、できることなら、誰にも何にも傷付けられない、穏やかな場所で笑っていてほしいと思う。
日々重さを増す俺のほの暗い気持ちに、郁ちゃんはいつまでも気付かないままだ。
それなりの規模のアクセサリーブランドは、シーズン毎に新商品の展示会を開催するらしい。
ちょうど後輩が担当していたブランドが、合同展示会で大きなブースを設けるので、顔を出しに行った方がいいのだろうか、という相談を受けた。
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