第3話
相変わらず感情の分かりにくい表情をしている。でも、機嫌がいいらしい。
声の温度だけでそう感じ取れるくらいには、私は彼のことを知っている。
今なら何をしても怒られないような気がして、手元のピンで悠の前髪を留めてみる。白いお花のついたそれが、男のうつくしい顔をかわいらしく彩って、私は堪えられずに笑ってしまう。
「なに、勝手に人の髪いじって、笑ってんの。」
「だって、悠、かわいくて。似合ってるよ。」
「ほのが似合ってるって言うのって、他に褒め言葉が見つからないときだよ。知ってた?」
「なんと、知らなかった。」
自分でさっさと外してしまわないあたり、やはり今日は機嫌がいいらしい。
だから、私が決められるまで、こうして付き合ってくれるつもりなのだろう。私の笑い声を、どこか呆れたような顔で受け止める悠だけがいる。
狭い教室。狭い学園。閉じられた世界の中で、私たちはどこへも飛べない羽を育てる。
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