真珠の乙女と亜麻色の青年
第1話 罠にかかったきっかけ
赤茶色の
追っ手や尾行している人間はいない、はず。念のため目的地まで何回か
クルミ材の豪華な飾り彫りの受付台に近づき、名前を告げ、客室のある2階への階段を上る。波状の曲線美を描く
目を引いたのは、磨き抜かれて艶を滑らせる調度品の数々と、黄色や青で模様が描かれた緋色の絨毯。そしていかにも座り心地の良さそうな羽毛詰めの肘掛け椅子に腰掛ける2人の男。1人はラルエットとそう変わらない、『青年』と言って良いほどの若者で、もう1人は眼鏡をかけた神経質そうな顔立ちの
「やあ。久しぶりだね」
肩で切りそろえられた、亜麻色のふわふわ波打つ髪。ラルエットは近づき、
「初任1週間の報告に参りました」
「お利口様」
にこにこと、距離が近ければ頭を撫でられそうなほどの甘ったるい笑顔で褒められる。だがこの笑みは飾っただけのものだ。彼の
王都警備隊の第一小隊と第二小隊は事件の捜査を主戦場とし、第三小隊は鑑識など裏方的な業務を担当している、らしい。
王都警備隊に限らず各地方にある警備隊に配属させるためには、士官学校を卒業することが必須となる。しかしラルエットは士官学校を卒業どころか在籍すらしていない。彼女は王立学術院の卒業生だった。
そんな彼女がなぜ、王都警備隊の第四小隊と接触し、あまつさえ小隊長と対面しているのか。
常人ならば騙されるだろう胡散臭い微笑に、この人は他人を信じたことがあるのだろうかと頭痛を覚えながら、彼女は記憶をさかのぼった。
**・***・***・**
高級宿屋【真珠の乙女亭】。王都の裏通りにあるその宿屋は、1階部分を飲食スペースが占め、2階と3階が客室となっている。『無法地帯』とも
ラルエットはその店の従業員だった。
王立学術院の卒業生は、卒業試験にさえ合格すれば自分の希望する公職に
ラルエットは、落ちてしまった。
原因は試験前日、夜遅くまで勉強し高熱を出してしまったからである。
卒業試験は一本勝負。例外はない。ただ体調不良などやむを得ない理由で受験できなかった生徒には『王立学術院卒業相当』と認定され、翌年の卒業試験に再度挑むことができる。つまりそれまで1年間、
非情な制度だが、それでも受けられる機会があるだけまだマシだ。ラルエットは試験の日まで、
遠方の田舎出身で王都に頼れる親族のいない、
我が身を売ることくらいだ。
【真珠の乙女亭】は宿屋という体裁を
客に求められれば、春もひさぐ――――が、幸か不幸か。ラルエットはいまだ
【真珠の乙女亭】の強みは、女性従業員が美の粒ぞろいである点だ。誰もが花も恥じらう
そんな中で、ラルエットはむしろ目立つほどに
うしろでひとつに束ねた、量の多い金の髪、飴みたいな瞳。顔立ちは至って平凡。美女には程遠いが不細工ではない。ただ、丸くて大きな瞳が不思議そうにまたたくと可愛らしいのだそうだ。せめてもの慰めである。
「リエット。ご指名だよ」
ラルエットは、ここでは『リエット』と偽称して
「私、ですか?」
聞き間違いではないかと戸惑う。見渡せば美女ばかりの宿屋内で、ラルエットに目を留める人間はごくわずかだ。ほとんどが盛りを過ぎた老人で、彼女が王立学術院で
ただ、今回の指名客は、ラルエットが始めて見る人物だった。背筋がしゃんとしていて、品も良い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます