あなたは人形です。

1.人形は種族です。


 キャラメイクを終了させて『Rebelion』の世界にダイヴする。


 システムAIによる音声が頭の中に直接響く。

 初めは気持ち悪く感じていたその音も次第に自然な音声と認識するようになる。


 やがて、暗闇の中で漂っていた私の精神は、突如として眩い光の中へと連れ込まれる。


『ゲーム』が始まったのだ。



「うっ……眩しい……」

 


 視界が開く。

 わかってはいたものの、いきなり強い光が目に入り思わず目を瞑る。


「ん……おぉ、すごいなリアルと何の遜色もないじゃない」


 私がスポーンした場所は周囲がうっそうと植物の覆い茂る森だった。


 それもただの森ではない。やけにサイズが大きいのだ。

 樹木などは私目線ではてっぺんを拝むことすらできない。


 ん……?待てよ、これって私が小さいのか……?


 自身の姿を見てみたい所だが、残念ながらここには鏡など存在しない。


 姿見は諦め、ステータス画面を開く……


 開く……

 


 ……開かない。



「ステータス、お前、どうやって表示するんだよ……」


《現在はチュートリアル開始前の為、ステータス画面を開くことはできません》


「うわっ!?何奴っ!?」


 突然、先ほどのシステム音声とは違う声色が頭に響く。

 頭に直接語りかけられる事には慣れたと思っていたが、突然来ると若干の吐き気がしてしまう。


《はい。初めまして。私はプレイヤー名:カイ様専属の管理・サポートAIです。

 また、現在はチュートリアル段階です。チュートリアルが完了次第、正式なサポートを開始いたします。何か御不明な点がございましたら、いつでもお気軽にお声がけくださいね♪》


 謎に最後にだけ抑揚をつけてサポートAIが喋り終わる。

 ぶりっ子AIなのだろうか、製作者側の好みなのだろうか、こんな形で他人の趣味など知りたくなった。


「あ、じゃあ早速質問いいかな?」


《はい。どうぞ♪》


「ここってどこ? そして私は何か、人間じゃないモノになってない?」


《はい。順番にお答えいたしますね♪

 一つ目のご質問『ここってどこ?』についてですが、現在位置は『チュートリアルの森』です。

 ここでは主に管理・サポートAIによるゲームシステムの教授、プレイスタイルの提示などを行います。

 そして二つ目のご質問『私は何?』ですが、現在のカイ様のお姿は『ほつれた人形』でございます。》



 ほつれた……人形……?



 「え、私って人形なの?しかも解れてるの?何故に?」


《はい。カイ様はほつれた人形です。

 『何故ほつれているのか』ですが、『ほつれた人形』が『種族ツリー:人形』の最初期種族だから。としか言い様がありません♪》


 なんということだ。人形は種族であるらしい。

 そして相変わらず、サポート音声の最後が煽られているようにしか聞こえず仕方ない。


 しかし、種族:人形というものはこのゲームを始めるまでに聞いたことがないものだった。つい先程にサポート音声は私のような人外プレイヤーは稀と言っていた。しかし、これまではそのようなプレイヤーは存在せずに今回の私が初めてだったか、実際に居たとしてもその存在を隠しているのかもしれない。

 兎も角だ。他と違うというこれは復とないチャンスだろう。


「よし、サポート音声!呼びにくいな……

 サポ音……違うな。サせい……サ終みたいで縁起悪いな。サこえくん……これだ!

 改めてサ声くんよ!チュートリアルを始めようじゃないか!」


《はい。チュートリアルを開始いたします♪》



 *



 ……という訳で、サポート音声改め、サ声くん監修の元に私の――人形としてのチュートリアルが始まった。


 最初は行動のテスト。両手両足、各関節――人形に関節があるのかは謎だが――などの動きをチェックしていき、不具合が見つかればその都度、サ声くんが微調整を行ってくれる。



《――はい。身体機能のシンクロを無事確認しました。次に能力、ステータス関連のチュートリアルを行います。カイ様、大きな声で『開け、ステータス』と唱えてください♪》


「えっ、それ大声じゃなきゃダメなやつ?」


 《はい。》


「わかった……えーっと、っん゛……『開け、ステータス』!」



 すると、さっきはどうしても出て来なかった私のステータス画面が目の前に現れた。よかった。予想通りの画面が出てきたことに安心する。

 しかし、毎回このセリフを言わないといけないのか。今回は森の中で他人が居なかったから良かったものの、今後はステータスを開く時は人前はよそう。



《はい。上手にできました♪

 因みにですが、自身のステータス開示を含め、殆どの魔法や技能は発動キーを変更することが可能です。ですので、今回のように叫ばなくたってシステムは稼働するのです。

 あ、変更したい場合は私にお申し付けください。尚、現在のステータス表示の発動キーは『開け、ステータス』です。また、熟練度が上がり次第、キーを唱えずとも頭に思い浮かべるだけで発動可能ですので、次回からは叫ばなくても大丈夫ですよ♪》


「なっ……サ声くんが言わせたんでしょ。

 しかも『上手にできました』って、褒めてるのか煽ってるのか……」



 サポートAIの急激な煽り性能の上昇が怖く感じる。

 だが、ここでサ声くんに屈してはならない。発動キーは一刻も早くに変更しなければ。



「Hey、サ声くんさんよ。

 ステータス表示の発動キーは『ステ表示』にでもしといてくれ。」


《了解しました。ステータス表示の発動キーを『ステ表示』に変換いたします♪》



 サ声くんは業務関連となると淡々と対応してくれる。

 これで妙な煽りや抑揚がなければサポートシステムとして最高なのに。本当にもったいないなぁ。



「それと、さっき魔法って言ったよね?この世界には魔法があるのかい!?いいなぁ魔法。私でも使えるようになるのかなぁ」


《どうでしょうか。私の知る限りでは現在、種族:人形に成ったプレイヤーの方はカイ様が初めてですのでなんとも言えませんね。

 まあ、魔法なんてなくても種族:人形には沢山の技能があるはずですので、地道に探していけば良いのではないでしょうか♪》



 サ声くんが圧を掛けつつ、無理に話を切ろうとする。

 チュートリアルを途中で中止したことを怒っているのかもしれない。最近のAIは細かいところまで人間らしさがある。



 *



 途中、様々なハプニングが起きるず、無事にチュートリアルの最後の段階まで進むことができた。サ声くんによると、最後は『技能』と『実技』のチェックだそうだ。


《はい。『技能』の確認に入ります。

 『技能』の確認が終わり次第、即座に実技へと移りますので、ここは特に丁寧に行っていきましょう。ではカイ様、ご自身の体から出ている糸と辺りの落ちている木の棒を使って『裁縫』をしてみましょう。》


「……『再訪』?」


《はい。『裁縫』です。》


「別に私、このゲームが始まってからどこにも行ってないけど。それに糸と棒で何するのさ?」


《あー、これはもしや、『裁縫』を知らない感じですか。

 ……マジで?》



 サ声くんが今日で一番の人間らしい発言をした。



「べ、別に知らない事があったって良いでしょ!」


《あ、いや、責めている訳じゃないのですが。

 その、カイ様の種族である人形に最も必要……と言うか、『裁縫』ができないとこの先成長できませんし、裁縫という言葉そのものを知らないのにも仰天ですし、チュートリアルも終わらないんですよね……》



 どうやら、『裁縫』というのは私がこのゲームをプレイじていくにあたって最も重要な要素らしい。



 《はい。確認できました。

 私側からチュートリアルを停止させることは非常に不味いのですが、上司マザーに問い合わせしたところ、『大丈夫』と言われましたので、先に『裁縫』についてお勉強いたしましょうか。大丈夫です、すぐに終わりますよ♪》



 サ声くんがニコニコ――彼?に顔があったなら絶対そうしている声色で――しながら語りかけてくる。最悪とまではいかなくとも、酷い目に遭わされそうな予感がする。



 *



 《はい。以上で『裁縫』の説明と確認は終了しました。これでもう大丈夫ですね?》



「…………は……ぃ」



 酷い目に遭った。

 サ声くんは口で説明するよりも手を動かしながら学んだ方が早く終わると言い、最初に私の体から糸を引き出すように指示した。

 これがダメだった。


 彼は人間ではない。AIである。なので、例え思考機能が人間と同じだとしても決して体を同じように持つ訳ではない。

 だからだろうか。自身の体を引っ張り、解し、さらにそれを材料というか実験器具のように扱うことへの強い嫌忌感を知らないのだ。


 しかし、私の体の一部以外には周囲に糸など存在しない。嫌だったが、本当に心の底から嫌だったが、仕方なく、私は糸を引っ張り抜いた。

 これは本当に世間一般で言う「裁縫」なのだろうか。


 その後は辺りから小さくて細い木の棒を探し、さらに細く削り出し、さらにそこに穴を開けて木の針を作った。


 地味ではあるが、この作業に関しても大変しんどい思いをした。なにせ、辺りに落ちていた木の棒は物凄く脆いのだ。

 棒から針を削り出すだけでも木端がボロボロと崩れ落ちていく。やっとできた針に穴を開けようとすれば、針は真っ二つに折れ、割れてしまう。


 もう既にゲームをやめてしまいたいと思っていた。


 しかし、サ声くんが

 

 《ここでやめてしまうと、再度起動した際にはまた一からやり直しですよ?》

 

 などと脅しをかけてきた。


 そう言われると辞めるわけにはいかない。ここまでの辛いことを全部もう一度! など、絶対に行いたくない。


 私は本当によく頑張った。誰か、誰でも良い。私のことをとことん褒めてやって欲しい。

 自身の体から糸を引っ張り抜き、まさかの針などの道具も自分で作り、一から裁縫について文字通り手取り足取り教えられ、ようやく最低限の合格を貰うことができた。


 そして現在。


 サ声くんは私のことを一切労おうともせず、次の業務へ移ろうと私を急かす。

 このサポート音声、ちょっとばかしサービス精神というものが足りないのではなかろうか。AIに人間のような精神があるのかはわからないが。

 


 《はい。では、これより、チュートリアル『実技』に入らせていただきます。

『実技』の内容はとっても簡単!

 今から召喚される敵対モブ――魔物を全て無力化できたらクリアです♪》

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