第32話 次は、あたしも抱いて? えっちしよ♪
ぬるま湯のような温もりから、ゆっくりと意識が浮上する。
妙にさわり心地のよい柔らかな感触に触れながら、ん……と、霞む瞼をゆっくり開いて――ふと。
俺は、自分が未だ、布団の中で己を守るものひとつ身につけておらず。
目の前に、柔らかな彼女の身体を静かに抱いていることに気づいて、ぶわ、と全身が熱を持った。
混乱し、動揺とともに、昨晩の出来事が走馬灯のように駆け巡る。
――記憶は鮮明に残っていた。
互いに素肌をさらし、恥ずかしい部分を見せ合い、お互いに触れながら……本番に至った経緯まで、きちんと。
柔らかな感触と感動がぶわっと脳内を見たし、つい昨夜の出来事なのに、自分の頬がまたも熱くなる。
甘く溶かした声に、彼女の奥底まで至った驚きと感動。そして――
互いにふれ合った記憶がごちゃまぜになって蘇り、思わず身もだえ。
恥辱のあまり布団に潜りたくなり、けれどその布団の中には、彼女が未だすやすやと……昨夜の祭事を終えた後の姿のまま、安らかな眠りについていて……
つい。もう一度触れたい、と、気持ちよく寝させてあげたい、の感情がない交ぜになり、固まる。
昨晩も、一度で満足できず二度、三度と至ってしまった。
にも関わらず、未だむくむくと溢れる欲求を覚え……
ぐっと、瞼を閉じ。
いくらなんでも朝からって、と、タガが外れそうになった己の獣を抑えつつ、ゆっくり、布団から外に出た。
肌寒さを覚えつつ着替えを済ませ、ちら、と彼女を伺い……
……。
……早くも、自分のものが元気を取り戻す様を自覚してしまい、いっそ思い出しながら、自分でトイレで――
い、いや。さすがにそれは恥ずいし情けない。
節度を保て、と己を叱咤しつつ普通にお手洗いに行き、ふぅ、と息をつく。
……それにしても。
家の命令とはいえ、俺が、女の子と身体を重ねる日が来るなんて……。
気恥ずかしさを覚えつつ、けど、昨日の自分と少しだけ違うような、妙な自信を覚えながら、ふるりと首を振る。
良くない。
これは、良くない。
彼女と交わったのは偽りの関係、あくまで家の事情で仕方なくであって、何かが変わったわけではない。意識ではそう思うのに心臓は未だドキドキと高鳴りを止めず、彼女とどう顔を合わせて良いのか分からなくなる。
……けど。
……けどまあ、普通に。
気恥ずかしさは残ってるけど、今日も普通の日が始まるだけ、と自分に言い聞かせながら、お手洗いを出て――またも、俺は息を飲む。
……ベッドの上。
ようやく目を覚ましたらしい彼女が、素肌に掛け布団をかけたまま眠たそうに瞼をこする、その、何気ない仕草に。
視線を奪われる。
……もちろん、寝ぼけて素肌をさらした彼女の素顔が美しいだとか、眠そうに目をしぱしぱさせぼーっとしてる様子がなんとも愛らしいとか、そんな当たり前のことは分かっているのに。
どうしてだろう。
彼女という存在そのものが、妙に愛らしく愛おしく見えすぎて、目が離せなくなる。
まるで、昨日の彼女とは別人のような……。
昨晩……お互いに交わったから、か?
共に身体の隅々まで見て、見られたからこそ、相手に対してより深い愛しさを覚えてしまった――身体の関係そのものが意識の方を作り替え、彼女という存在をより愛しい人にしてしまった……?
そういえば、爺様も言っていた。
欲に溺れる。ゆえに学べ、と。
嘘であっても身体を交えることで、心は自然と結ばれた女の方に傾き、つい、嘘と知りながらも本物の愛情を抱きたくなってしまう――
催眠術にでもかかったかのような自分の心境変化に戸惑い、固まる俺に、彼女が気づく。
ん、と可愛い声をあげて俺を見つめ、こてん、と小首を傾ける彼女。
「どうかしたの……? 蓮くん」
「いや、そのっ」
「……もう。朝からあたふたして。可愛いなぁ」
「っ……それより……服、着てくれ」
その格好のまま、はにかまれては俺の心臓が痛い。
彼女も遅れて気づいたらしく、あ、と可愛く呟きながら顔を染め、けれどすぐ……ふふっ、とイタズラ好きな猫のように。
「恥ずかしがらなくてもいいのに、蓮くん。昨日あんなに見たでしょ?」
「それと、これとは別っていうか……」
「もう。蓮くんはほんとに照れ屋さんなんだから」
彼女がくすくすと笑い、ベッドから起き上がろうとしたので、俺は慌ててソファに腰掛け背中を向ける。
と、とにかく早く着替えを。
でないと、朝から元気いっぱいな俺の中の俺が、またも興奮してしまって……
と、瞼を閉じ背中を向ける俺に、なぜか、するりと布団の擦れる音が近づき――
「ね、蓮くん。……ここはさ、えっちしてもいい部屋なんだから……朝からでも、いい、よね?」
くすぐられるように囁かれ、俺の首裏からするりと彼女の腕が伸びてくる。
するりと、俺の背に密着してくる、彼女。……当然、その姿は昨夜のまま、愛らしい身に何ひとつまとっておらず――柔らかな感触に、昨晩触れた記憶がない交ぜになって蘇り、どく、どく、と俺の全身に血流がなだれ込む。
いや、落ち着け。これはいつもの、彼女の嘘偽りのお誘い。
ガマン、ガマン。
……けど……もう別に、ガマンしなくてもいい、わけで……。
「私ね。昨日はじめて、君と触れてみたけど……驚いたし、ドキドキしたし、怖いなって気持ちもほんの少しだけあったけど……思ってた通り、君は優しかったね」
「っ、で、でも俺、ついガマンできなくて……二回とか、三回とか」
「最後のは、私からお願いしたもん。ああ、これって気持ちいいものなんだって、知ったら……私も、ね?」
男を狂わす声が、脳を揺さぶる。
待て、と歯止めをかける理性と、そのまま行け、押し倒せ、と囁く本能の狭間に揺れ動き、俺は一人うんうんと悩み。
……でも。
さすがの俺も、いまの彼女が嘘をついてる訳でないことは理解してるし……。
昨晩の最後は、向こうから求められたわけで。
それに爺様からは元々、彼女と一年間を通じて身体の関係を深め、学ぶよう言われている。
彼女とは今後も、幾度となく交わることになる……その回数が、一回、いや、二回増えるだけって考えるなら……?
「……本当に、いいんですか」
「うん。君は私と、たくさん話をして、ガマンして、決めたことだから。ね? それに君は、今までガマンにガマンを重ねてきたんだから。昨日の今日くらい、もっと楽しんでもいいと思うよ?」
私もそれでいい、って心から思うから。
彼女との関係に、愛はないけど、もし許されるなら……と、俺はそっとソファで身をよじり。
間近にいた、肩口まですっかり素肌をさらした彼女の、きらめく瞳を真正面に見据え。
下半身をはっきりといきりたてながら、自然に、彼女と口づけを交わそうとして――
コンコン、と。
ドアのノック音に、二人揃って飛び跳ねた。
彼女があたふたと掛け布団を肩まで再び直すなか。
そういえば朝食の時間か、と身構える俺達の前で扉が開き、現れたのは――
「おはよ、蓮。……あ、そっちが噂の彼女さんだね? いやぁ、昨日ヤったって感じばりばり出てんじゃーん」
照れるねえ、と笑いながらひらひらと挨拶をしてきたのは、昨日……
彼女の代わりに、俺に抱かれるために現れた、第二の少女――金髪美人の少女だった。
え、と呆然とする俺と彼女を横目に、金髪の子はひらひらと手を振り。
俺の真横にすとん、と当たり前のように腰掛け、その手を俺のズボンに置いて――
「昨夜はどんな感じだった? 気持ちよかった? いいなぁ。……ってことで、今日からあたしもお願いね?」
「え?」
「え、って、決まってるじゃん。蓮ったら、もう。言わなくてもわかるでしょ?」
彼女は、学校によくいる友達のような感覚で、俺の太ももをぽんと叩き。
彼女とは違う眩しい笑顔で、にっ、と笑った。
「次は、あたしも抱いて? えっちしよ♪」
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