えっちしないと出られない部屋で、嘘つき彼女とガマン比べをしてたらいつの間にか純愛になった件

時田唯

第1話 お願いがあるんだけど……私を、抱いてくれない?


「初めまして、東条蓮君。気軽に、蓮くん、って呼んでもいいかな? 私ね、あなたのことを愛しているの。だから、お願いがあるんだけど……私を、抱いてくれない?」


 彼女を前に、俺が初めて抱いた感情は――驚きと、劣情。

 平たくいえば、エロい、という欲求そのものだった。


 年齢はおそらく、俺よりすこし年上だろうか。

 初雪のようにきれいな肌に、ストレートボブに揃えた黒髪を揺らし柔らかく微笑む少女。

 俺をまっすぐに見つめる瞳は宝石のように綺麗で、星のように瞬いていて、つい自然と意識が吸い寄せられる。


 そしてそれ以上に意識を引くのが、彼女の……


「私ね? 自分でいうのも恥ずかしいけど、そこそこ、魅力のある女の子だと思うの。……学校でもよく、男子に見られてるなって思って、昔は理由が分からなかったんだけど……きっと、私の大きなものを見てたんだと思う」


 じろじろ見られるのは恥ずかしいけどね、と彼女が頬を染めながらうすく唇を緩める。

 つられて……。

 つい、誘われるまま視線を落とす。


 彼女の、年頃の女性と比較しても豊かであろう膨らみに。

 そして、それを包んだ衣服……

 いや。服と呼んでいいのかすら分からない……薄桃色の、ドレスのように――うっすらと透ける薄いネグリジェ。


 ……本当に……隠すのでなく透けていて。

 まるで淡いカーテンに包まれたようなネグリジェの下、うっすらと色までわかる薄さは――豊かな双丘を包む、白い布の形まではっきりと見えて。

 妄想の中で幾度となく思い描いた柔らかさが、すぐ、手の届くところにあって……


 どっ、どっ、と自分の心音が激しく高鳴る。

 視線を逸らさなければ、と、頭では理解しているのに逸らせず……そしてきっと、このまま下を向けば、彼女の下着すらはっきりと目の当たりにできる、できてしまうことを想像し、ぎゅっと唇を噛む。


 そんな俺を、全て理解したかのように、少女が笑う。


「ふふ。気になる? いいよ。蓮くんになら、恥ずかしいけど……全部、君のものだから」


 ね、と彼女が優しく、ネグリジェを揺らして俺を誘う。


「直接、触って、確かめていいんだよ。君は、大きい方が好き? それとも、小さい方? できれば、私を好きになって欲しいな。私も、君のことを愛してるから」

「っ……」

「さ、蓮くん。どうぞ? ガマンしなくても大丈夫。君の、本能のままに私を好きにして欲しい。好き。好き。私は君のことが好き。だから……ね?」


 彼女がゆるりと両手を広げ、愛おしいお姉ちゃんのように俺を進む。

 君の、好きにしてください。

 男として本能の赴くまま、私を押し倒してください。

 私の愛おしい身体はすべて、君にあげるから――彼女に迫られ、俺はどうしようもなく顔を真っ赤にしながら、思う。


 ……これは、どういう状況だ?


*


 東条蓮、つまり俺は、ある一点を除けばごく普通の男子高校生だ。

 友達はいうほど多くなく、普段は一人でゲームしたり小説を読むのが好きな陰キャタイプ。

 性格も明るいとはいえず、つい色々考えすぎてしまってすぐ身動きの取れなくなる、頭でっかちなタイプなのが自分でも好きじゃない……そんな男だ。


 そんな俺が唯一、他人と違うのは――東条家。

 日本の政界を裏から牛耳るとまでいわれた巨大な一族、その分家筋にあたる点だ。


 ……といっても、俺は分家のなかでも端の端なので、普段の生活は一般人と変わりない。

 年に二回、正月と夏休みに本家へ顔を出し、当主様を初めとしたご家族にご挨拶をするとても面倒臭い行事があるだけで、普段から深い関わりがあるわけではない。


 ――そう思っていた今年の正月明け、当主たるお爺様より伝言を伝えられた。




『東条蓮。わしの大切な家族よ。正月の家族会が終わった後、指定した屋敷に参られよ』




 東条家当主、東条雁戸からのメッセージ。


 当主様は東条家に属する者を、本家、分家にかかわらず愛しい家族と呼ぶ。

 当主様の言葉は絶対だ。

 もし断って機嫌を損なおうものなら、一家は数日と経たず路頭に迷う可能性が高いと噂されており、実際うちの父親はいつも当主様の機嫌を伺いびくびくしている。


 だから父には「当主様が言うから、その……頼む」と言われ。

 東条家であることに誇りを持つ母には「家の名を汚さないよう頑張りなさい」と背中を叩かれ、屋敷に送られ――


 いまに至る。


 屋敷の二階。ホテルのスイートルームのような部屋にあるのは、ガラス張りのローテーブルとアンティーク調のソファに、クローゼット。天井にモニターがひとつ。

 嫌でも目につく、薄桃色の大きな大きなダブルベッド。

 曇りガラスで仕切られた風呂場に、同じく、曇りガラスで区切られたトイレ。


 そして俺の前で微笑む、あられもない格好をした少女……


「……蓮くん。緊張してるの? もしかしてもう、ガチガチになってるの? まあ、本当は私もちょっと緊張してるけどね? 好きな人の前で、どうしようかなってドキドキしてるの。……でも、大丈夫。あとは全部、えっちで可愛いおねーさんに任せて、ゆっくり、たっぷり……気持ちよく、なろ?」


 脳を揺さぶる甘ったるい声に、理性がぐらつく。

 混乱しながらも、俺の内に燻る本能が牙を剥き、どくんどくんと半身に血流を集め興奮のあまり昂ぶっていく。


 ……けど、そうじゃなくて――


「っ、えっと……これって、どういう状況なんだ。何かの、間違いじゃ……」

「ふふ。蓮くんは……この状況で、間違いなんて、あると思う?」

「…………」

「男の子と女の子が、一人ずつ。部屋のなかには大きなベッド。これで間違える人はいないと、思うな。それに……」


 彼女がするりと俺に迫る。

 僅か半歩ほどの距離。彼女の色香がふわりと俺の鼻孔をくすぐり、くらくらと麻薬のように理性を溶かし――同時に、強く主張し始めている俺の半身に気づいた彼女が、ふふ、と柔らかく笑う。


「君の、こっちの方は、とっても元気みたい。……中は、どうなってるのかな?」


 彼女の囁きに、ぐ、と声が詰まる。

 理性がぐらつく。分かっている。

 俺だって子供じゃない、この状況の意味がまるで理解出来ないほどバカじゃない――けど、でも、


「ガマン、しなくていいよ?」

「っ、ぐっ」

「私は君が好き。蓮くんのことが好き。大切なのは、それだけ、でしょ? だから……お姉さんと好きなこと、しない?」


 固まる俺の頬に、彼女が触れる。

 柔らかな女の指先が頬を撫で、それだけでびくんと全身が敏感に反応し呼吸が浅く、荒くなる。

 身体が熱い。

 可愛らしい女に、直に頬を触れられている。

 その事実だけで脳がぐつぐつと煮えたぎり、心音が自分でもはっきりと分かるほどうるさく鼓動をかき鳴らし――




 ざざ、と走る耳障りなノイズ音のお陰で、はっとする。

 天井に吊り下げられたモニタが点灯し、白髭の老人が映し出された。


『挨拶が遅くなったな。東条蓮。我が家族よ。……おや、もう始めるところだったか?』


 東条雁戸――東条家の総帥にして、日本有数のキングメーカー。

 本来なら声をかけるのも憚れる雲の上の存在が、顔を真っ赤にした俺を見つめ、くく、と笑う。


『結構、結構。その様子では説明もいらぬようだな。……とはいえ、挨拶もなしにというのも失礼であろう。……東条蓮。我が可愛い家族よ――愛の屋敷へようこそ』

「……愛?」

『お前さんを招いた理由は、ただひとつ。我が家族よ、その女を抱くがよい。でなくば、その部屋から出ることは叶わん』


 つまり、と当主様はくつくつと笑い。

 この状況を的確に表現する、もっとも分かりやすい言葉を教えてくれた。




『つまり――えっちしないと出られない部屋、だ。……男なら、誰もが憧れる話であろう?』





――――――――――――――――

新作はじめました。とりあえず10万文字は書きためてあります、ご興味がありましたら宜しくお願いいたします。内容はタイトル通りのラブコメです。

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