第3話 17歳

17歳  


 人気ガールズアイドルグループ、16アイデンティティー・エイジ。通称16アイエイは14歳から23歳の女の子16人で構成されている。前列トップに3人、中列セカンドに5人、後列バックに8人、新曲が出るたびに入れ替わる。

 あたしは、石峰薫子かおるここと石井かおる。あだ名はカオ。


 あたしは中列セカンドが定位置。後列バックに落ちそうで落ちないくらい。同じ事務所の子があと2人いて中列セカンド後列バックを行ったり来たりしてる。一応3人でセッサタクマしている感じ。でも、前列トップはいつだって大手事務所の子。うちみたいな新進事務所には厳しいのかな。


「そんなことないよ、うち、あの事務所の傘下だから。扱いは同じ」

 相変わらず綺麗な顔をした社長がパソコンを見ながら言った。この3年で所属タレントも増えて、うちの事務所はまだ新進だけど弱小ではなくなった。そのせいで、あたしなんか、社長にとってその他大勢になった気がする。


「で、カオ、あなた、いつ本気になってくれんの?」

 パソコンから16アイエイの新曲が流れる。この間MVを撮り終えたばかりの新曲。

「カオなら、前列トップ、それもセンターになれる筈よ」 

 くるっとノートパソコンを回して、あたしにも見えるようにした。ちょうど画面はあたしの顔が大きく映っているところで、社長はそこで一時停止した。

「カオは、人を惹きつける。少なくとも、私はカオに惹きつけられてる」


 この社長のおだてに、あたしは踊らされて、アイドルになってしまった。16アイエイはそこそこ売れ始めて、あたしもそこそこのアイドルって立ち位置になった。

 社長はずるい。きっと、こうやって、この事務所のみんなを転がしてるに違いない。

「あたしは、ずっと本気でやってるんだけど」

「カオ」

 社長がため息をついて、あたしを見る。その綺麗な目を見返せず、窓の方を見ながらあたしは言った。

前列トップ、入ったら……」

 社長が片目だけを少し見開いた。入ったら何?と言うように。



「……キスしてよ」



 社長は大きく目を見開いた。そうだよね、驚くよね。あたしだって、今、なんでこんなこと言ったか分かんないよ。



「冗談だから」

 

 そう言って、社長室から飛び出したけど、足が動かなくて、ドアの前で立ち尽くした。




 立ったまま、なぜだか、泣いた。

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