第10話

瞬間



…―――ドキンッ…――!



大きく、激しい鼓動を刻む胸。



呼吸さえ忘れそうな錯覚にゴクリと息を呑み込んだ。



だって目の前に佇む男が放つ存在感は、まるで強力な磁石のようで…


目が離せない程に惹き付けられる、それは異彩なオーラとでも呼ぶのだろうか。




───…かっこいい。



透き通った肌。


切れ長の鋭い瞳にスッと通った鼻筋。



スラッと伸びた細身の体型も、長さがあるアッシュブラウンの髪も…



本当にすごく、すっごく、かっこいい…。




服装も文句の付けようが無い位にお洒落で、同業だということは直感的に理解出来た気がする。




でもあたしは軽いパニック状態に陥ったまま抜け出せずにいた。




だって入社して8ヶ月目。


同じフロアの人ならもう顔位は覚えている。



なのにあたしの記憶の糸の先を辿っても、彼は何処にもいなかったから。





見つめ合ったまま…―――



一体、何秒が過ぎていた?




我に返ったあたしは、ようやくハッとして慌てて彼から目を離す。



するとドアノブに手を掛けたまま静止していた彼が、おもむろに口を開いた。




「……お疲れ…」



低くクリーンに通った声が脳裏に響く。




「お疲れ様…です…」



消え入りそうな声で何とか返事をして彼に背を向けると


…―――パタン…


静かにドアが閉まる音が、あたしと彼を2人きりの空間に閉じ込めた。

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