パート8: 騎士みたい?

(うーん、やっぱり誰かに見てもらいたいな、この姿…)


鏡の前で新しい装備に見惚れていた俺は、ふとそんなことを思った。

特に、アカリさんに見せたら、どんな反応をするだろうか?

驚くかな? それとも、似合わないって笑われるか?


(いや、アカリさんがそんなこと言うはずないか)


彼女ならきっと、喜んでくれるはずだ。

そう思うと、いてもたってもいられなくなってきた。


(よし、ギルドに行ってみよう。もしかしたらアカリさんもいるかもしれないし)


俺は新しい装備を身に着けたまま、宿を出て再びギルドへ向かった。

街行く人たちが、俺の姿を見て少し驚いたように道を空けるのが分かる。やっぱり、前とは印象が違うんだろうな。ちょっとだけ、優越感を感じてしまう。


ギルドホールに入ると、運良く、アカリさんが掲示板の前で依頼を探しているところだった。


「アカリさん!」


俺が声をかけると、彼女は振り向き、そして目を丸くして固まった。


「え……ユ、ユウキさん!? その格好…!」


アカリさんは俺の頭からつま先までをまじまじと見て、驚きの声を上げた。


「えへへ、ちょっと装備を新調してみたんですよ」


俺は照れ隠しに頭を掻く。


「ちょっとどころじゃないですよ! すごいです! ナイトソードに、プレートアーマー、それにカイトシールドまで…! まるで、本物の騎士みたいです!」


(騎士みたい、か…!)


最高の褒め言葉じゃないか!

アカリさんにそう言ってもらえると、奮発して買った甲斐があったってものだ。


「ありがとうございます。グレイウルフ討伐で得た報酬と、前のオークの素材の売却益で、なんとか揃えられて」


「そうだったんですね! でも、本当に似合ってますよ! すごく頼もしく見えます!」


アカリさんは自分のことのように嬉しそうに、キラキラした目で俺を見上げてくる。

その素直な反応が、やっぱり嬉しい。


「アカリさんこそ、次の依頼ですか?」


「はい。何か手頃なDランク依頼がないかなって探してたんですけど…あ、そうだ。ユウキさんは、これからどうするんですか?」


「俺も、新しい装備を試したいし、何か依頼を受けようかと思ってるところです。できれば、新しいスキルも試せるような…」


俺が言いかけると、アカリさんは「あ!」と何かを思い出したように手を叩いた。


「あの、ユウキさん! この前の話なんですけど…」


(この前の話…協力の申し出のことか?)


「もし、もしよかったらなんですけど…」


アカリさんは少し言い淀みながら、顔を赤らめて続ける。


「私と、一緒に依頼に行くっていうのは…どう、でしょうか…?」


(!!)


予想外の、直接的な誘いだった。

アカリさんと一緒に依頼…?


(それは…すごく魅力的だけど…)


俺にはまだ、追跡者のことがある。システムのこともある。

彼女を危険なことに巻き込むわけにはいかない。


「…えっと」


俺が返答に詰まっていると、アカリさんは慌てて付け加えた。


「あ、もちろん、無理にとは言いません! ユウキさんにはユウキさんのペースがあるでしょうし! ただ、もし、ちょうどいい依頼があったら、その…候補の一つとして、考えてもらえたら嬉しいなって…」


(候補の一つ、か…)


それなら、今すぐに断る必要はないかもしれない。

それに、正直に言って、アカリさんと一緒に戦えたら、すごく心強いだろうと思う。

彼女の回復魔法や支援魔法があれば、俺ももっと安心して戦えるはずだ。


「…分かりました。ありがとうございます、アカリさん」


俺は少し考えてから、そう答えた。


「もし、俺一人じゃ難しそうで、アカリさんの力が必要そうな依頼を見つけたら…その時は、声をかけさせてもらってもいいですか?」


「! はいっ! もちろんです! いつでも待ってますから!」


アカリさんは、ぱあっと顔を輝かせた。

その笑顔は、やっぱり最高だ。


(よし…)


具体的な約束はしなかったけど、大きな一歩だ。

いつか、本当に彼女と肩を並べて戦える日が来るかもしれない。

そのためにも、俺はもっと強くならないと。


「じゃあ、俺はもう少し依頼を見てみますね」


「はい! 私も探してみます!」


俺たちは笑顔で頷き合い、再び掲示板へと向き直った。

新しい装備、そしてアカリさんとの未来への小さな約束。

俺の胸は、確かな希望と期待で満たされていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る