幼馴染に絶交されたけど私は諦めるつもりありません

天然無自覚難聴系主人公

第1話 絶縁宣告

『おい』

『聞いてんのか』

『ねぇー』

『おい』

『おーい』

『ねぇ』

『ねえ』

『おい』

『おいって言ってるんだろ』

『無視すんなし』


 私の一方的に送り付けるメールに返事はいつまで経っても帰ってこない。自分のメッセージだけが長々と画面に映しだされていくだけ。そして、この状況に段々と苛立ちが溜まってくる。私は更にヒートアップし、メッセージを連ねていく。


『おい』

『おい』

『おい』

『おい』

『ねえ』

『返事は?』

『おい』

『おい』

『なんか言ってよ』

『おい』


 大きめの舌打ちが静かな部屋に響かせる。ぬいぐるみに化粧道具、可愛い物で埋め尽くしたこの部屋には似合わない舌打ちをスマホのフリック音を鳴らすたびに響かせる。長いフリック音を止め、少しの間静かな時間を過ごす。


 それでも視線は片時もスマホから離さずに画面に既読の文字が付くのを待ち続ける。薄く画面に反射する私の表情は段々と引きつっていき、怒りと哀しさが垣間見える。


 いくら待っても返事の来ないスマホを布団に投げつけ、それを布団が優しく受け止める。それに続くように私も布団に倒れ込み、暗い天井を眺める。ベクトルの違う優しさが私を包み込んでくれている。


「バカ優真 ……なんで返事してくれないのよ……」


 自覚が無いわけでは無い。けれど分からない。ただ少し喧嘩みたいな事をしてしまっただけだ。どれも本心ではなく冗談のつもりだ。それでも現状優真から無視をし続けられている。優真のメンタルの弱さを妬むばかりで私は悪くないと心の中で唱え続ける。


 それでも寝っ転がり目を閉じて振り返れば言い方がキツかったなど思ってしまう自分もいる。しかしそれを認めるわけには行かない。悩みに悩み、その末に一つの行動を起こす。


『これ以上無視したら絶交だからね』


 決して軽々しい言葉ではないが、私は無視をし続けられるのが嫌いだ。少し脅せばあの優真は折れてくれるはずだ。私と優真は仲が良く、喧嘩をする前は長時間の電話も一緒に遊ぶこともあった。私にとっても優真にとっても絶交は嫌なはずだ。これに観念して優真とまた一緒に話せるはず。


 そんな軽い根端だった。――けれど一分、二分と待っても既読のつく様子が無い。

 そんな画面を前に私の視界が霞み始める。他愛もない事から始まった喧嘩の原因を探しトーク履歴を遡る。段々と返信の頻度と量が減り、空気が変わっている。それに気づいていない自分の会話を飛ばし、無視し始められる最後『もういい』という言葉を見つけ、霞がかった視界は限界を迎え、文字が見えなくなった。


「私が何をしたっていうのよ……分からないよ……」


 その一日前の履歴にはある優真の返信はとても私を嫌っているようには見えない。いつもの優真だが、返信の量が確かに少ないと感じる。直近の喧嘩の事への謝罪文を考えるも中々送る勇気が出ない。これを送ってしまえば私の格が下がってしまう。絶対にそんな事を言っている場合ではないのにも関わらず躊躇してしまう。


 そんな自分に溜息を吐き、一度冷静になろうとまたスマホを投げる。その直後になる着信音に勢いよく体を起こし内容を確認するも、優真からのものではなくまた倒れ込んだ。送るか迷っているとまた通知音が耳に届いた。どうせ優真ではないと思いながらもその通知を確認した。


 画面には優真からの新着メッセージと書かれた分と送るか悩んでいた謝罪文が送信済みになっている。それの返事を見られてしまった。私は思わず声を上げ立ち上がり急いで内容を確認する。


『まずは断らせていただきます。そしておそらく今後二度と話さないと思い、最後の挨拶をしに来た次第でございます――』


「――は……?」


 心臓が大きく脈打ち、そして静まる。消えてしまったように鼓動を感じ取れない心臓はまるで穴が開いているかのよう。最初の一文から理解が出来なかった。こんな返信を待っているわけではなかった。疑問に苛まれながらも続きの文を読み続ける。


『――あなたと最後にやり取りしたあの日、元いい日ごろから僕を下に見る発言です。一例を挙げますとあなたが最後のやり取りをした時に言った『犬以下』などが挙げられます。どういう経緯で僕を犬以下と思っているかは理解できませんが、僕は自分と対等に話してくれる人とお話がしたいと思いました。あなたは当てはまらないので話したいのならば犬とお話しする事をお勧めします。そして最後の理由は先ほど来た謝罪文とは言えない様な謝罪文です。ここ数日あなたと話しても意味が無いと思い返信をせずにいました。ですが今日の――』


 まるで私が悪いと言っているような文面を決して認めない。私は悪くないと何度も復唱し、優真が勝手に拗ねているだけ。とこじつける。


「ふ、ふざけるんじゃないわよ……!」


 全てを読み終わる前にスマホを投げ捨てる。そこに悲しみを感じ取れない。ただ怒りと、見返してやりたいという淀んだ感情だけが沸きあがる。溜まっていた涙が流れ落ち、その痕を拭き取る。


「絶対認めないんだから……!! 許さないし……また、二人で……」


 部屋に似合わない私の震えた声が部屋中に静かに響く。だけど誰も返事はしてくれない。

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