第2話 『天賦転換』の代償と、日常の異能
剣を打ち終え、僕は工房の床にへたり込んだ。いや、正確にはひっくり返った、という方が正しいかもしれない。
流石は【ヨンキント工房】の親方、スヴェン・ヨンキント。良質の鉄鉱石を求めて無理をし、大怪我を負ったという彼だが、その筋骨隆々な体格で振るう金槌の重みと熱量は、一時的に能力を借りただけの僕の貧弱な肉体にはあまりに過酷だったのだ。
親方に半ば抱えられるように工房に連れ込まれ、その直後、親方は完全に息が上がって倒れてしまった。流石に弟子たちが支えてくれたおかげで転倒は免れたが、やはり自分で鍛冶をする体力は残っていなかったらしい。
「くっ! こんなはずでは……おい、誰かこいつに鍛冶を一通り見せてやってくれ!」
意識を取り戻した親方は、倒れた僕を見下ろしながら怒鳴った。流石に僕が『天賦転換』を使うのに必要な手順は把握していたようだ。お弟子さんたちが、見慣れぬヒョロヒョロ兵士(僕)に、怪訝な顔をしながらも鍛冶の工程を教えてくれた。
そして、今に至る。
「親方……酷いですよぉ。能力を借りたって、この体格じゃあ無理がありますよ」「納期に間に合わなきゃ意味ねえんだっつうの!」
……まったく。間に合ったからいいものの。
こうして僕は、専門外であるはずの鍛冶をこなすことになった。そして驚くべきことに、今後も親方が怪我をする度に、何度も鍛冶を代行する羽目になるのだから困ったものだ。親方、本当に怪我しないようにしてください!
まあ、こんな感じで、僕の兵役生活は続いている。これでも一応兵士なんだけど、実態は『便利屋』状態だ。しかも、兵士として活動している時間を『勤務中』というのなら、これらの活動への報酬は基本無し。ただ、僕の『天賦転換』には一つ面白い特性がある。同じ相手に何度も能力を使うことで、その対象の能力を、ごく僅かながらも『己のもの』として覚えられる場合がある――十五年近くこの能力を使ってきて分かったことだ。
例えば、治療の能力は何度か体得できた。簡単な傷や病気なら回復させられるが、その度に魔力をごっそり持っていかれる。流石に骨折を治すほどの熟練度はない。鍛冶も少し覚えたが、こればかりは炉と材料が無ければどうにもならない。便利さで言えば治療だが、どちらも本職には遠く及ばないし、体力や魔力の消費も馬鹿にならない。
『天賦転換』で能力を借りる場合、相手の熟練度(レベル)をそのまま使えるから、いきなり達人級の腕前を披露できる。だが、それはあくまで借り物。終われば単なる素人だ。一方、自分で『覚えた』能力は、最初は最低限のレベルだが、使えば使うほど熟練度が上がり、より効率的に使えるようになるらしい。同じ能力を借りた経験も、自分で得た能力の熟練度を上げる助けになるというのも、長年の経験で分かったことだ。
食堂で料理を手伝ってくれと言われることもあるが、残念ながら料理の能力は持っていないし、『天賦転換』は労働力そのものを増やせるわけじゃない。やっぱり使い勝手の難しい能力だ。
その結果、ついたあだ名が『便利屋レクス』。正直、あまり嬉しくない二つ名だ。
「いいじゃないか便利屋! プフフフヒヒイヒヒ! それとも、おっさん予備軍とでも呼んでやろうか? ケケケケケ!」
食堂で食事をしていると、小馬鹿にしたような声で話しかけてくる者がいた。たまに見かけるおばちゃんだ。……そして、まだ二十九だ、おっさんちゃうわ! ただ、悲しいことに、十代の新兵は僕をおっさん呼ばわりすることがある。三十歳目前、か。やっぱり、三十歳はおっさんなのか……いや、今はどうでもいいか。自称聖女様な『痛い人』の相手が先だ。
「あら? 自称聖女様なんて酷いわねぇ、レクスったら。信じておらんのか? 聖女が綺麗で若くて気立ての良い女性とでも思っているようだが、現実はこんなもんよ! グハハハハハ! さあ飲みなさい、どんどん飲みなさい!」
このおばちゃんも治療師なのだが、自分を聖女だという大嘘吹きでなければ……試しに聖女の力を見せてよ、と言ってみる。
「むむ……よかろう、とくと見よ! 聖女の祈り!」
……何も起こらない。やはりガセだ。
「仕方なかろう? 月に一度しか使えぬ特別な能力なんだぞ?」
はいはい、そういうことにしますかね。
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