平和な日常は終わりを告げた――体格に恵まれぬ三十路の兵士が手にしたのは、触れた能力を己の力に変える『天賦転換』絶望から始まる遅咲きの英雄譚
よっしぃ@書籍化
序章 レクス・ヴィルケスの生い立ち
第1話 平凡なる兵士、非凡なる『異能』
あと数ヶ月で三十歳になる。兵役終了の区切りだ。
僕、レクス・ヴィルケスの十五年間は、ひたすら平和な【アルベルテュス王国】での後方支援だった。アルベルテュス四世陛下が治めるこの国には、数十年と戦争が無い。周囲もまた平和そのもの。だから、僕は一度だって対人戦闘をしたことがない。
生来、僕は体格に恵まれなかった。痩せっぽちで背も低い。貧困層出身で、十五で兵役免除の金を工面できず、仕方なく志願兵となった身としては、肉体を使った前線など最初から無縁だった。
兵役は三十歳の誕生日まで。戦争になれば四十歳まで延長らしいが、この平和が続く限り、あと僅かでこの軍隊生活も終わる。正直、ホッとしている。
冒険者に憧れた時期もあったけれど、それは叶わぬ夢だった。ダンジョンで魔物を狩り、ドロップアイテムや魔石を売って暮らす。刺激的で自由な生き様だが、僕には縁遠い世界だ。
そんな体たらくな僕にも、唯一得られた能力がある。スキルとも呼ばれる【天賦転換】。
何それ、って思うだろう? 簡単に言えば、触れた相手の能力を、一時的に己のものとする異能だ。
正直、最初は碌な使い道が思いつかなかった。折角得た能力を、ホイホイ他人に貸すなんて馬鹿げている。だが、平和な時代ではこの能力の使い道など限られていると思っていたんだ。
偶然は、魔物駆除の前線を支援していた時に起こった。偶発的に強い魔物が暴走し、多くの兵士が負傷。治療所は混乱を極めた。治療師たちの魔力は枯渇寸前。その時、誰かが僕の能力に気づき、魔力切れ寸前の治療師と入れ替わるよう指示されたんだ。
能力だけを借り、教えてもらった通りに応急治療を行う。それが、僕の『天賦転換』が広く認知されるきっかけとなった。
結果、僕は『便利屋』になった。
どうせ前線に出るわけでもない後方支援。融通が利くのだろう。こうして任務中でも、あるいは命令一つで色々な場所へ赴き、人々の能力を借りて問題解決にあたる日々が始まった。
平和な日常における、僕という名の『異能使い』の仕事。それは、誰かの代わりを務めることだった。
…………
今日また一人、治療を終えたばかりのおじさんに呼び止められた。
「くそっ!骨はくっついているのに何故駄目なんだ!」
「親方、治療は終わりましたが、あくまで怪我を治しただけですから。失った血まで回復した訳じゃありませんよ。数日間は鍛冶なんて無理です。」
治療した相手は、【ヨンキント工房】を営むスヴェン・ヨンキント親方。良質の鉄鉱石を求めて無理をし、大怪我を負った腕を治療したばかりだった。
「あー!マジかよ!明日までに納めねえと駄目な武器があるんだよ……そう言えばレクス、てめえ、入れ替わりの能力だったよなあ?」
親方の目が爛々と輝き出す。嫌な予感がした。
「ええ、今でこそ入れ替わらなくとも治療補助くらいは出来ますけれど、専門的な能力は入れ替わらないと無理ですねえ。」
「……本来なら門外不出なんだが、てめえなら悪用もしまい……俺と入れ替わり、剣を打ってくれや!」
……僕、兵士なんだけど。スヴェン親方、分かってる?
「今から【ヨンキント工房】へ向かうんですか? スヴェン親方。」
「そうさ、本来ならこんな時間も惜しい。鉄鉱石如きで怪我たぁ情けねえが、良質なのぁワシ自ら行かなきゃ手に入らねえ。納期に余裕がありゃあこんな事にゃ……まあいい、急ぐぞレクス!」
「いや、親方ちょっと! まだ治療を終えていない人がいるんですけれど!」
「そんなの他に居る治療師に任せときゃいい! 治療師の代わりなら此処に沢山いるじゃねえか! だが、レクスの代わりは……たぶんいねえ!」
そう、入れ替わる能力を持っている人なんて、周囲に居ないんだ。
僕は治療院の責任者に事情を話し、親方と共にヨンキント工房へ急ぐことになった。
今日もまた、僕は誰かの『代わり』として、平凡な兵士の日常を送る。
この『天賦転換』という能力が、こんな平和な後方支援で役立つばかりのまま、僕の兵役は終わるのだろうか?
それとも――。
● 作者からのお願い ●
『平和な日常は終わりを告げた――体格に恵まれぬ三十路の兵士が手にしたのは、触れた能力を己の力に変える『天賦転換』絶望から始まる遅咲きの英雄譚』 をお読みいただきありがとうございます。
今はまだ平和な日常と、主人公レクスの『便利屋』としての姿を描いていますが、物語はやがて大きく動き出します。体格に恵まれぬ三十路兵士レクスと、彼の異能『天賦転換』が、如何なる絶望に立ち向かい、遅咲きの英雄となるのか――。
「続きが気になる!」「この主人公を応援したい!」 と少しでも感じていただけたら、大変嬉しく思います。
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