第11話 水瓶座『冬の星図』
1. 冬の観測所
冷たい夜風が、静かな丘を吹き抜ける。
丘の上にある天文台のドームが開き、漆黒の空が広がった。
そこには無数の星々が輝き、まるで遠い宇宙が手を伸ばせば届くような気さえした。
「やっぱり、ここは最高だな。」
俺――蒼(あおい)は、望遠鏡を調整しながら隣に立つ彼女を見た。
「うん。やっぱり、落ち着くね。」
彼女――凛(りん)は、嬉しそうに夜空を見上げている。
俺たちは昔から、ここで一緒に星を見てきた。
そして、今日は特別な日だった。
2. 交わした約束
「覚えてる? 高校のとき、ここで話したこと。」
「どれ?」
「宇宙に行きたいって言ったこと。」
「……ああ。」
俺は微笑む。
「あのときは、夢みたいな話だったな。」
「でも、今は違うでしょ?」
凛は、いたずらっぽく笑う。
「そうだな。」
俺は、ジャケットのポケットから一枚の紙を取り出した。
「……NASAの研究員として、アメリカに行くことになった。」
「……そっか。」
凛の笑顔が、一瞬だけ曇る。
「すごいね。ついに、宇宙の近くまで行くんだ。」
「まあ、まだ地球の上だけどな。」
そう言いながらも、俺は彼女の表情が気になった。
「……寂しくなる?」
「そりゃあ、ね。」
凛は少しだけ口を尖らせる。
「でも、止める気はないよ。」
「……凛。」
「だって、ずっと見てきたもん。蒼がどれだけ星を追いかけてきたか。」
凛の瞳は、夜空よりも澄んでいた。
「だから、私はここで星を見てる。」
「……ここで?」
「うん。地球から、蒼のいる場所を。」
3. 未来の星図
俺は、彼女に小さな封筒を差し出した。
「開けてみて。」
凛は首を傾げながら、それを受け取る。
中には、一枚の紙が入っていた。
「……これって。」
「俺たちが、高校のときに描いた星図。」
懐かしい記憶が蘇る。
夜空を見ながら、未来の星座を想像して、二人で勝手に名前をつけた。
「この星とこの星をつないで……"未来座"。」
「覚えてる?」
「……うん、覚えてる。」
凛の声が、少し震える。
「俺が宇宙に行くとき、この星図を持っていく。」
「……え?」
「俺たちが作った未来座を、宇宙から見てみる。」
「……蒼。」
彼女の目に、少しだけ涙が滲んでいた。
4. 夜空の約束
「蒼。」
「ん?」
「絶対に、宇宙に行ってよ。」
「……ああ。」
「そして、帰ってきて。」
「もちろん。」
「私たちの"未来座"、いつか一緒に見ようね。」
凛は、夜空を見上げる。
その横顔は、どこか誇らしげで、そして少しだけ寂しそうだった。
俺も同じように夜空を見上げる。
そこには、変わらず輝く星々があった。
【終わり】
――「君と描いた未来は、夜空に瞬く星のように、ここに残る。」
水瓶座らしい、未来を見つめる物語。
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