『星降る夜に、君を想う』

Algo Lighter アルゴライター

第1話 牡羊座『春雷と約束の丘』

「君となら、どんな嵐の中でも。」


1. 春雷の夜


 三月の終わり、桜が咲き始めたばかりの夜。

 町の外れにある小高い丘で、律(りつ)はひとり空を見上げていた。


 雲が裂けるような雷鳴が響く。湿った風が吹きつけ、遠くの街灯がちらつく。春雷特有の生ぬるい空気が肌を撫で、雨の匂いが近づいてくるのがわかった。


 「相変わらず、ここにいるんだね。」


 背後から聞き慣れた声がした。振り向くと、そこにはひさびさに見る彼女の姿があった。


 「詩(うた)……。」


 律は驚きに目を見開いた。


 詩は肩までの黒髪を濡らしながら、丘の階段をゆっくりと登ってきた。スプリングコートの裾が風に舞い、雨粒が頬を滑り落ちる。


 「どうして……帰ってきたんだ?」


 「雷が鳴ると、ここを思い出すから。」


 詩は小さく笑った。


2. 幼い日の約束


 律と詩がこの丘に来るのは、決まって春の嵐の夜だった。


 幼い頃、二人は雷が怖くて家を飛び出し、この丘でお互いを抱きしめ合った。いつしか、雷が鳴るとここで会うのが習慣になっていた。


 だが、高校卒業を前にして、詩は突然町を離れた。音楽の道を志し、単身で海外へ行ったのだ。


 「おまえがいなくなってから、俺はずっとここに来てたよ。」


 律は少しだけ拗ねたように言う。


 「うん……知ってた。だから、また来た。」


 詩はそう言って、小さな手を伸ばした。


3. 雷鳴と涙


 「……ねぇ、律。私はこれからも、この道を進んでいいのかな?」


 詩の声がかすかに震える。


 「もうすぐオーディションがあるの。でも、もしダメだったら……帰ってきてもいい?」


 雷鳴が轟く。


 律はその音に負けないように、強く言った。


 「おまえがどこにいたって、俺はここにいる。だから、前だけ見て進め。」


 詩の目に光るものが宿る。


 「……怖くない?」


 「怖いさ。でも、怖いからって立ち止まるのは、もっと怖い。」


 律は空を見上げる。


 「どんな嵐の中でも、俺はここで待ってる。」


 詩の唇が震え、次の瞬間、彼女は律に抱きついた。


 「ありがとう。」


 雷鳴が夜空を裂いた。雨が降り出し、二人の影をぼやかしていく。


 詩は泣いていた。


 律は、そんな彼女の背中をそっと撫でた。


4. それでも、また春が来る


 翌朝、詩は町を去った。


 律はいつものように、丘に一人で立っていた。夜の嵐が嘘のように、空は澄み渡り、桜の花びらが静かに舞っていた。


 彼は静かに目を閉じる。


 また雷が鳴る頃、詩はきっと帰ってくる。


 それまで、自分はここで待ち続ける。


 「……春雷の夜に、また会おう。」


 風が吹き抜け、律の言葉をさらっていった。


【終わり】

――"どんな嵐の中でも、君を待っている"

そんな愛が、確かにこの世界にはある。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る