第8話 魔力酔い
ユウタが再び目を覚ましたのは,真っ白な病室だった。
目を覚ました瞬間,見慣れない白塗りの天井が目に飛び込んできた。
ユウタは,白い病院服に着替えさせられて,ベットに横になっていた。
起き上がって周囲を見回すと,白いカーテンで周囲は仕切られている。
ユウタがベットから上体を起こすと,カーテン越しに異変に気付いたらしい足音がカツカツという音を立ててユウタの所に近づいてきた。
そのまま,バッと勢いよくカーテンが開けられた。
カーテンの向こうに立っていたのは,全身黒装束を身に纏った金髪の女性だった。身長は小柄なユウタよりもかなり低く,顔から予測して年齢はユウタより下だった。
幼さの残る顔立ちだったが,表情には,強い意志が宿っているような凛々しさがにじみ出ている。
少女は,ユウタを見るなり,両手を腰に当てて,ユウタを叱り飛ばした。
「あんた,バカなの?」
「え?」
「あんた,バカなのかって聞いてるの!」
初対面の女性にいきなりバカ呼ばわりされて,ユウタはどう反論すればいいのか思いつかなかったので,思ったことをそのまま言った。
「バカじゃありません」
「いいえ,あんたは命知らずの大バカよ!」
どうやらこの女性の中で,ユウタに対する評価はすでに決まっていたらしい。
女性は,ユウタの右手をぐいっと引き寄せると,患者服の袖を二の腕までまくり上げた。
ユウタの手は,あちこちに血管が浮き上がり,腕中が腫れ上がり,皮膚がただれていた。
「これは・・・」
「これは,いわゆる『魔力酔い』よ!
杖などの媒介物を使わず魔力を身体を使って放出した時に起きる現象よ!」
「魔力酔い・・・」
ユウタは,どこかでその言葉を聞いた記憶があったが,いつ聞いたのかは思い出せなかった。
「あんた,剣術の稽古の時,杖を使わず魔法を使ったでしょ。杖を使わず魔法を使うことは,魔力を直接身体に流すことになって大変危険だって,学校で習わなかったの?」
そういえば,そんなことを魔法学校の最初の頃に教師から説明されたな,とユウタは思った。しかし,杖を使わないとこんな悲惨な目に遭うとは説明されていないはずだ。
黒装束の女性は,まっすぐユウタを指差して言った。
「あなたは,魔法使い失格よ!基礎の部分から,なってないわ!もし今後も魔法使いを続けるつもりがあるなら,さっさと転職することね!」
初対面の女性に,いきなり転職命令された。
ユウタは普段は口論をなるべく避けるようにしているが,さすがに言われっぱなしにしておくわけにもいかず,ユウタは反論することにした。
「いきなり何だよ!
おれは魔法使いで生計を立ててるんだ!今更転職するにしたって,剣士や狙撃手になれる適正はないし,そもそもまた養成学校から入り直さなくちゃならなくなるだろう!」
それを聞いた黒装束の女性は,当たり前だという表情で言った。
「僧侶になればいいじゃない。
癒しの魔法は,魔法使いの使う魔法とも重複する部分が多いでしょう。
魔法使いから僧侶に転職する例なんて,いくらでもあると思うんだけど」
元々肉体的に強靱であったり,視力が優れていなければならない剣士や狙撃手に比べて,魔法使いと僧侶は,分野は違えど魔法を使う点で共通点が多い。
しかも,癒やしの魔法は攻撃魔法と違って肉体にかけることを想定して作られているため,杖を使わずとも肉体にかける負荷は非常に少ない。
この女性のアドバイスは、とても現実的なアドバイスだった。
しかし,このアドバイスは,ユウタにとっては最も受け入れられない提案だった。
ユウタは,斜め下を眺めながら,ぼそぼそ呟くように言った。
「・・・ないんだよ」
「は?」
「使えないんだよ,回復魔法」
黒装束の女性は,信じられないという表情でユウタを見た。
「ウソでしょう?ほんとに,まったく?」
ユウタは,俯いたままコクリと頷いた。
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