第14話 vsアルフレッド②
――――三人称視点――――
話が違う。
腹を殴られうずくまったアルフレッドはそう思った。
こんな話ではなかった。
こんなはずではなかった。
もっと簡単な儲け話だったはずだ。
この街の領主、バークから聞いていたのは、楽で簡単な儲け話だったはずだ。
領主が国の規定よりも税金を高くとることは特に珍しい話ではない。
ただしあまりにも高くとりすぎた場合は国から罰則が入ることがある。
それに、領民に対する仕打ちが目に余る場合にも罰則は入る。
このシオンの街の領主であるバークのやり方は、国の基準からしてもかなり悪辣な部類だった。
3年前にバークが領主になった当初から、街の住民や街に立ち寄った者たちからの彼に対する苦情はいっていた。
アルフレッドはそれらをずっともみ消し、問題なしと国に報告していた。
バークからの賄賂によって多額の金が入ってきていたからだ。
それに、彼が召し上げた女たちで楽しみもした。
彼にとって、それは決して重労働ではない。
騎士である自分は国からの信用も高く、もみ消すことは簡単だった。
こういう仕事は魔物を退治することに比べて危険もなく、大変でもない。
それで報酬は莫大な金とたくさんの美女。
破格の報酬だ。
まったく楽な商売もこの世にあるものだと、喜んでいた。
今回の査察も同じだ。
まさかレベッカが同行することになるとは思わなかったが、しかし別に問題はない。
レベッカは道中か、あるいは街で殺せばいいからだ。
レベッカは同じBランクの騎士。
実力は互角であるためまともに戦えば苦戦はするが、油断しているところを後ろから刺せば簡単に殺せる。
王国へは、レベッカは道中の事故によって死亡したと伝えればいい。
Bランクのスキルを持つ騎士とて、死亡事故がないわけでもない。
いいやいっそのこと、シオンの街の宿に泊まった際に住民から毒を盛られたことにすればいい。
罪は適当な宿屋にでも押し付けてその場で処刑にでもする。
証拠の毒はバークにでも用意させれば事足りる。
事件は町民の暴走ということで片付け、領主バーク本人には問題はなし。
むしろ騎士の殺人事件をいち早く解決に導いた功労者とでもでっち上げれば、上からの信頼も得れる。
杜撰な計画ではあるが、アルフレッドはそれがバレるとは思っていなかった。
どうせ王国はまともに調べることはしない。
勇者召喚の失敗の件で、責任問題や今後の方針で揉めている。
王国の中枢がもめている気配を敏感に感じて魔族からの攻撃も最近多くなっている。
つまり上層部はてんてこまいで、騎士1人の事件にかかずらっている場合ではない。
決してばれることはない。
万が一ばれそうになっても、バークにすべての責任を押し付ければいいだけ。
楽で割のいい儲け話。
それは今回も同じだ。
そう思っていたのに――。
「立てよ。格の違いを見せてくれるんだろう?」
頭の上から声がかかる。
相手は街にいた、ただの冒険者らしき男。
ただの冒険者だと思っていたのに、自分を上回る強さをしていた。
話が違う!
こんな強い奴がいるなんて知らない!
アルフレッドは賄賂を貰い街を見捨てる腐った男ではあるが、しかし腐っていても騎士だ。
騎士としてそれなりに戦闘経験はあり、実戦慣れし、高ランクの戦闘スキルを持つ実力者だ。
しかしアルフレッドはこれまで格下の存在か、あるいは同格の騎士としか戦っていない。
だから彼は、これまで戦ったことがなかった。
自分よりも圧倒的に強い相手に。
たらりとアルフレッドは冷や汗を流す。
甘く見ていた。
実力を測れていなかった。
剣を折られた時点で――いいや不意打ちの攻撃を食らった時点で気づくべきだった。
相手は自分よりも強い男であるのだと。
次元の違う強者なのだと。
アルフレッドを打ち負かした男は明らかにBランクではない。
Aランクか、あるいはSランクの力を持っている。
だとするならば――勝てない。勝てるわけがない。
もはや回復手段のポーションはなく、武器となる剣もない。
今のアルフレッドにはこの男に万に一つの勝ち目もないのだ。
こんな時に使える手は一つしかない。
「や、やめろ……。わかった。降参する」
アルフレッドは降参することを選択した。
アルフレッドの心は既に折れている。
騎士としてのプライドやBランクのスキルを持っているという自信は、たった1発の拳によって折れていた。
「そうか。降参するか」
「ああ。それでいいだろ? お前みたいな化け物と戦って勝ち目なんてない。命あっての物種だ。俺は潔く身を引くぜ」
「いいのか? 領主から賄賂を貰っているんじゃないのか?」
「バークからはこの街の調査を邪魔して、王都からの目を誤魔化すことを頼まれている。が、それだけだ。依頼は調査の邪魔をすることだけだ。命がけで戦うことなんて頼まれてねえ。いや、たとえ頼まれていていても、お前とは戦いたくねえ!」
アルフレッドは既に力量差を理解している。
だから彼にもはや戦う意思は既にない。
ただ降参して許しを請うことだけが、この場を乗り切る方法だった。
「そうか。よくわかった」
そして、それが功を奏した。
レースケから声がかかる。
「早く立て」
「あ、ああ。わかった――」
レースケの言葉に安心したアルフレッドは彼の言葉通りに立ち上がる。
助かった、とアルフレッドは思った。
相手は降参を受け入れ、自分は見逃されたのだと思った。
これでもう痛みも苦しみも味わうことないのだと安心した。
「――ごふぁっ!」
アルフレッドは腹にさらにもう一発の拳を食らう。
Sランクの強さで放たれる拳は、Bランク程度の強さのアルフレッドに耐えられるものではない。
「あ――、があっ……!」
自分の腹が爆ぜたかと思えるような衝撃と痛みに、ただただ苦しむしかない。
これほどまでの苦しみは、アルフレッドはいままで味わったことがなかった。
「な、なんで……。降参したのに……」
「別に降参したら許すなんて言ってないからな」
レースケはアルフレッドの首根っこを掴む。
そうなったアルフレッドは、もううずくまることすらできなかった。
もちろん逃げることは、絶対にできない。
「こ、降参だ。降参するから……」
「だから別に許しはしないって。まあ俺自身がお前に何かされたわけじゃないけどさ、お前のせいでこの街の住民は無駄に長く苦しむことになった。その分の責任は取るべきだろ。ひとまずお前の処遇はボコしてから考えることにするよ」
「ひ、ひぃっ……」
またあの痛みがやってくるのか!
そんなものに耐えられない!
アルフレッドの顔が恐怖で引きつる。
アルフレッドはその場でじたばたと暴れるが、抜け出すことなどできなかった。
「た、助けて。助けてくれええええええ!」
続いて与えられた拳の連打に、アルフレッドは耐えられずに失神した。
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