第34話 休暇



 オーク討伐のクエストを完遂して、何日か経過した。


 その間俺たちは毎日クエストに行って魔物を退治したり、あるいはギルドの訓練場で訓練をしていた。


 そんなある日のこと。



「今日は我は休む。調子が出ない」



 朝、いつものように起きるとラティカがそんなことを言い始めた。



「あれ? 昨日やりすぎた?」


 心当たりは……ないわけじゃない。

 昨日の夜もお楽しみだったのだ。

 


「ごめんね。最近は手加減するようにしてたんだけど」



 最初の頃は経験が浅いゆえに手加減という概念がなかったが、最近はある程度加減するようになっていた。

 やはり体力の消耗が激しく、加減しないと翌日二人がクエストに行く体力がなくなってしまうのである。


 そうならないよう、気を使っているつもりだったんだけどな



「そうではない。主殿は手加減をしてくれていた。気絶こそしたが、今日に影響するほど体力なくなってはいない」


「じゃあ体調悪いの? 風邪?」


「風邪でもない。体は健康なのだが……なんとなく調子が悪いのだ。ドラゴンは時々こういう調子の悪い日があるのだ。クエストに行くのなら、主殿とアイナ殿だけで行ってくれ」



 ラティカはベッドで寝転びながら言っている。


 一見するとただ怠惰なだけなようにも見えるが、ここ数日の付き合いでラティカが怠けたがりではないことは知っている。


 クエストに行くときも、やる気を出して魔物を狩っていたからな。


 今日は本当に調子が悪いのだろう。

 こころなしか寝転がっているラティカが、なんとなくダルそうに見える(気もする)。



「じゃあ今日は休みでいいか……」



 二人の頑張りもあってか、最近クエストの達成依頼も魔物の討伐素材もかなり調子がいい。


 ここらで休みを挟んでもいいだろう。


「よし。今日は休みにしよう。二人とも自由に過ごしてくれていいぞ。俺も好きに過ごすから」


 

 急遽予定を変更して、今日は休みに決定した。






「自由にしていいって、言ったんだけどね」


「私はご主人様と一緒にいたいので!」



 朝食を食べて、一回『一時帰宅』で地球に帰ってスキルを手に入れる。

 その後、俺はアイナと一緒に王都の街を歩いていた。


 はじめは俺が一人で外に行こうとしたのだが、アイナが俺を追いかけてきて二人で出かけることになった。



「ご主人様。どのような用事なのでしょうか。私も一緒に参ります」


「あの下着店に胸当てを買いに行くくらいしか用事はないよ」



 この間、胸当てを買った下着店。

 つけてみたら二人の評判も良かったので、追加で何枚か買うことにした。


 今日はそれを受け取ろうかと思っている。

 

 それだって別に、ちょっと寄ってすぐ受け取るだけだから、大した用事ではない。


 そしてそれ以外は特に用事と呼べるものはなかった。

 今日はもともとクエストに行って魔物倒す予定だったし。



「そうだ。食料とか買ってみるか。実は今日はちょっと面白いスキルを手に入れたし」


「どのようなスキルでしょうか?」


「それはまだ秘密。今度クエストに出かけた時にでも教えるよ」


 楽しみはとっておこう。 


 俺たちは二人で食料品を売っている店による。

 アイナが食料を買いに奥へと向かい、俺もそれに続こうとしたとき。

 


「あ、お前」



 横から声をかけられた。


「ん?」


 声に振り向くと、そこにいたのは小太りのおっさんだった。


 完全に目が合っている。


「俺?」


「そうだよ、お前だよ」


 一応聞いてみた。

 どうやら人違いでもないらしい。


 

「え? だれ?」



 俺はそのおっさんを知らなかった。


 なんなんですか。

 誰ですか。


 知らない人なんですけど……。


 知らない大人に急に話しかけられるの怖いな。



「誰って、俺だよ。覚えてねえのかよ」


「どこかで会ったっけ?」


 この異世界に知り合いなんて、数えるほどしかいないはずなんだけどな。


「ほら、少し前にお前に奴隷を売ってやったろ」


「ああ。あの奴隷商人か」

 


 アイナを売っていた奴隷商人か。

 言われて顔を思い出した。


 もう1週間も前の話になるから、忘れていたよ。



 ……まだアイナを買ってから1週間しか経ってないのか。

 なんかもう、なんやかんやで4週間くらい経っている気がしてた。


 時間の流れってのは案外ゆっくりだなあ。



「あの奴隷商人か……。なんか用か?」


「いや、用ってほどのことはねえよ。見かけたから話しかけただけ」


 そんな友達みたいな。


「はあ……。いちいち奴隷を買った人全員に話しかけてるのか?」


「そんなことはねえけどよ、印象深い客だったから覚えていてな。つい話しかけたんだ」


「印象深いか……。まあそれはそうだろうな」



 当時のアイナは嫌悪の呪いにかかっていたから、誰からも嫌われて買い手がつかなかった。

 そんななかで『聖人』というスキルのおかげで呪いの効かない俺が彼女を買ったのだ。


 それまで買い手のつかない奴隷を買った客だ。 

 印象深いというのも理解できる。



「それで? お前まだあの奴隷を所持してんのかよ? それとももう捨てちまったか? あるいは殺したか」


「そんなことするわけないだろ。今もまだ俺と一緒にいるよ」


「ハッ。お前ももの好きだな。それとも、あんな奴しか買えないから後生大事に持っているのか?」



 馬鹿にしたように笑ってくる商人。


 態度の悪い……。

 破格の安さとはいえ、一応お前のとこから奴隷を買った客なんだけどな。

 

 そんな奴隷とまだ一緒にいることを馬鹿にしてくるなんて、商人としてどうなんだよ。



「そうかい。買った奴隷とどう過ごそうが俺の勝手だろ。お前の気にすることじゃない」


 こいつはあまり付き合いたくはないタイプだな。  

 そう判断して、俺はそうそうに会話を切る。



「ご主人様ー! 買ってきましたー!」



 ちょうど奥の方にいたアイナが今戻ってきた。



「ごくろうさま。もう行こうかアイナ」



「おい……。待て。いまお前アイナと言ったか? そいつもしかして、あのアイナか!?」



 奴隷商人がアイナの姿を見て驚いている。



「ああ。そうだよ。というかわかるだろ。見た目はそんなに変わってないはずだし」



「いや、そうなんだが。でもなんか、印象が全然違うぞ。あんなに憎らしかったのに、今じゃこんなに……!」


「魅力的、か?」


「ああ。そうだ。何があったんだ! 俺が持っていた時はこんなんじゃなかったぞ!」


「彼女にかかっていた呪いを解いたんだよ。それだけだ」



「呪いを解いたぁ……!?」



 奴隷商人は衝撃を受けたように絶句している。


「クソ! たったそれだけでこんなになるんだったら、俺もそうすりゃよかった! クソ! こうなるとわかっていたらあんなに安値でうらなかったのに! ずるいぞテメエ!」


 奴隷商人はそう地団太を踏んで悔しがっている。

 そして、とんでもないことを言い出した。



「おい。お前。そいつを安値で売ったことはナシだ! もっと金よこせ!」


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