第19話 ドラゴンに遭遇



 アイナのおかげで『マップ』がすごいスキルということを改めて認識することができた。


 これまでは周囲の地図を見ることと、特定の魔物を探すことくらいにしか使ってなかった。

 だがこれからはこの『マップ』を使いこなしてみようと思い、色々といじってみると、便利な機能があることに気づく。



 『マップ』で確認できる範囲を広げることもできる。

 人や魔物の状態がわかるようにもできる。

 命のピンチなら点滅、狂暴な状態なら光が強くなる。


 他にも魔物を危険度ごとにランク付けして表示することもできた。

 魔物を示す赤い点が大きければ強い魔物、小さければ弱い魔物となる。


 これで示してみると……。


「すごく大きい赤い点がありますね」


「ああ。滅茶苦茶つよい魔物がいるってことだよな」


「でも、点滅しています」


「命の危機ということなのか。強いけど死にかけているということか?」



 王都の近くの森に強い魔物がいるってのもぞっとする話だが。

 そんな強い奴を死にかけまで追い込んだ奴もいるってことも空恐ろしいことだ。


 できるなら、その強い奴は人類の味方――ひいては俺たちの味方でいて欲しいものだが。

 


「これどうする? この赤い点滅の方に行く?」



 君子危うきには近づかず。

 そんな言葉がある通り、自分たちから危険な方に近づいてもいいことはないだろう。

 別に俺たちは森の調査を請け負っているわけでもないし。


 今日の俺たちの任務はオーク3体の討伐だ。


 だがこの魔物を放っておいたら、王都に被害が出るかもしれない。

 このまま弱体化して死ぬ可能性もあるが、回復して王都を襲う可能性もある。


 どちらもあり得る。

 どう転ぶのかはわからない。


 王都が襲われればどっちにしろ俺達も無事では済まない。

 


「ご主人様にお任せします。どんな決断であろうと、私はご主人様についていく所存です」


 アイナが俺の目を見ながらそう述べる。

 

 その目は俺の言葉を疑っていない目で、その顔は俺に絶対についていくと既に決意している顔だった。



「わかった。じゃあ見に行こう」


 

 俺はそう決断を下す。


 危険があるのかもしれないが、ないかもしれない。

 それはここで確認しておかなければいけない。


 ここで王都に帰って冒険者ギルドに頼んだところで、恐らく大した意味はないだろう。


 こう言っては自惚れだと思われてしまうが、今の王都に俺以上に強い冒険者はいない。


 単純な戦闘力で言うならば、近接系のSランクスキルも魔法系のSランクスキルも複数個持っている俺が、最も強いといっていい。


 『聖人』のスキルのおかげで即死しなければ自由に治癒を行うこともできるのだ。


 俺が王都で最も強く、最も安全だ。

 ここは俺が最適な人選なのだ。



「この赤い大きな点の所に行く。近くまで行って、対応できる相手とわかったならそこで解決しよう。対応できないとわかったら王都に戻って危険性を伝える」


 危険性を伝えた後はギルドや国に任せるしかない。

 俺が対処できないことがギルドで対処できるのか、という疑問はあるが、まあそこに関しては彼らが判断すべきこと。


「かしこまりました」


 アイナが頷き、俺達は強力な魔物の所にいくことにした。




 場所はそれなりに遠いところにある洞窟の中だった。


「ん?」


 ここ、結界あるな。


 誰も近づかないように、隠形の類の結界が張られていることに気づいた。

 結界に気づかなければ、洞窟のことには気づかずに素通りしてしまっていただろう。


 気づけたのは俺が『結界神』のスキルをもっているからだ。


 隠形で隠されているだけで、出入りを封じるような結界ではない。 

 わざわざ結界を解く必要はないし、余計なこともしたくないから、そのまま結界を素通りして洞窟の中にはいる。



「!」


 アイナはビクンと震える。


「ご主人様。この中」


「ああ。いるな」


 洞窟に入れば、その中にはこの先にいるであろう魔物が発する気配があった。

 

 オークの比ではないくらい強力なものだ。


 どうやらあの結界は、隠形で外から洞窟に気づかないようにしていただけなく、この異様な気配をも隠していたらしい。



 洞窟は一本道になっていた。

 そのまま進んでいくと、開いたところに出る。


 そこにいたのは、1匹のドラゴンだった。


 姿が見えると、俺とアイナは二人で物陰に身を隠す。



「ご主人様。あれはドラゴンです。どうしてこんな人のいる近くの森に……」


「ドラゴンってやっぱり強いのか?」


「強いなんてものじゃありません。過去、街どころか国すらも滅ぼしたと言われる伝説の存在です。倒すためにはSランクのスキルを持つ者が必要だとすら言われています」


「倒すにはSランクのスキルが必要ね」



 じゃあ俺倒せるじゃん。

 Sランクスキルなんて1ダースくらい持ってるぞ。


「普通ならば個人で対処するようなものではありません。国に応援を頼まなければいけないような相手です。ただ、国全体で応戦して一矢報いることができるかどうか……」


「そんなに警戒しなくてもいいと思う」


 近くに来て、その姿を間近で見て感じた。

 俺はあいつを倒せる。


 弱っている今ならば確実に倒せるし、仮に全力状態でも倒せると思う。


 それは『剣聖』のスキルによる勘だ。

 自分と相手との実力差が理解できる。


 俺はあのドラゴンを倒すことができると、理解できた。

 

 倒しに行くか……?




「そこに誰かいるか?」



 声が聞こえてきた。

 声を発したのは俺でもアイナでもない。


 ならばあとはこの場にいるのは、ドラゴンだった。



「誰かいるな。二人か。人間だな」



「ば、バレています……! どうしましょう。ご主人様……!」


「バレているなら仕方ない。このまま隠れている必要もないだろう。いくぞ、アイナ」


「う、うう……。怖いですけど、私はご主人様についていきます。はい、行きましょう。ご主人様」


 俺たち二人は物陰から身を出す。


 ドラゴンの瞳がこちらを向き、俺たち二人を凝視している。


 その行動に、アイナは恐怖で一瞬ビクリと体を震わせた。

 彼女の手を掴んであげると、ギュッと握り返される。


「安心して。俺と一緒にいれば大丈夫だから」


「はい。ご主人様」


 ひとまず、俺はドラゴンに向き直る。

 まずは挨拶からだ。


「お初にお目にかかります。俺は冒険者をやっているレースケという者です。貴方はドラゴンさんですね」



 自分で言っといてなんだが、なんだドラゴンさんって。



「ラティカ・ゾネリカだ。我の名前である」


「ラティカさんと呼んでもいいですか?」


「構わない。レースケよ、いかなる用でこの場に来たのかは知らぬが、ちょうどいい。貴殿に頼みがあるのだが、聞いてはくれぬか?」


「頼みの内容によりますが、どんなことでしょう?」



「我を解放してくれ」



 ドラゴンは、そう俺たちに告げた。

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