女の子(裏事情)
※この物語はフィクションです実際の団体、人物とは関係ありません。
――
マンションの一室、そこはクーラーがガンガン効かされている部屋だ。
そこに置かれているのはその部屋の生活領域を侵す程の大量の植物。
だがこれは、よほどの植物好きの住人が住んでいる訳ではなく大麻である。
そんな大麻栽培部屋に住んでいるのは男女と小さな子ども。
この男は狼のタトゥーを入れた大柄な男でこの部屋の主である。この男大江鬼五郎おおえおにごろうは予想を裏切らずヤクザ者である。
そしてこの男と住んでいる女は大江湯女おおえゆなこの男の妻である。
この夫婦の間に産まれたのがこの小さな子どもである。
その小さな女の子は今、部屋の隅で見つからないように縮こまっていた。
この女の子は自分の名前も年齢も知らない。
生まれてから一度も、誰にも名前で呼ばれたことがなかった。
父は『おい』、母は『邪魔』たったそれだけだった。
そしてこの子には戸籍すらなかった。
この子に戸籍がないのは、鬼五郎と湯女が意図してそうしたからだ。
二人は、娘をただの子どもとして育てるつもりなど最初からなかった。
遊んでいたら勝手に産まれてきた邪魔な奴と考えていたからだ。
鬼五郎は、生まれたばかりの娘を見下ろしながら思った。
いいシノギを思いついた。今やっている大麻栽培はアニキのシノギで全然金が入らねぇ、こっちは危険な橋を渡ってるってのによう……。
戸籍を作れば国に存在を知られてしまう。病院も学校も、国の管理下だ。だが、存在を隠したまま育てれば、大きくなったときに誰にも知られずに売り飛ばすことができる。
鬼五郎は腕っぷしはあるがしのぎが上手くないヤクザだったため、上納金を納められないでいて自分の立場が危うかっただから自身の娘を売るシノギを考えたのだ。
湯女もそれを当然のこととして受け入れていた。
鬼五郎が組で出世すればそれだけ自分が贅沢が出来ると考えていたからの行動だった。
この女の子のことを金と両親は金としか見ていなかった。
幸か不幸かこういった理由からこんなどうしようもない親の間に産まれた女の子は食事も与えられていたし、変態に売ることを考えて身体に傷がつくと値段が下がると暴力などは受けていなかった。
そしてもう一つ、彼女にとって幸運だったのは、鬼五郎が致命的な馬鹿だったことだ。
日に浴びた方がいい女に成長する、そして部屋にいられるのも邪魔だと自由に外に出歩くことを許されていたのだ。
特にGPSなどをつけていたわけではなかったが自分たちは親なのだから逃げることはないだろうと思っていた。
それはその通りで子の女の子はしっかりといつも家に戻ってきた。
それは外に出ても、産まれてからまともにコミュニケーションを取ってこなかったため公園で遊んでいた子と一緒に遊ぼうとしても距離感が分からず嫌われてしまうなど逃げても自分の居場所がないと思ったこと。
初めて外に出た時に親と楽しそうに遊ぶ同い年くらいの子を見たからであった。
いつか自分を愛してくれると考えてちゃんと戻ってきていた。
そして彼女は出会った。
いつも1人で行く公園のベンチに座っているお姫様がいたのだ。
それはいつの日かゴミ捨て場にあった絵本のお姫様のようだった。
女の子は声をかけたいと思った。
だが女の子は声をかけるのをためらってしまう
声をかけたい。でも、こわい。
胸の奥がぎゅっとなった。女の子は勇気を出そうとしたが何度も足を止めた。
今までにも公園で遊ぼうと声をかけた子たちは、女の子を見ると眉をひそめたり、怖がったり、怒ったりした。
これは知らない女の子が自分たちのグループに入ってこようとしたがまだ子どもだったためこのような態度を取ってしまっただけでどちらも悪くないのだが、女の子はまた嫌われたらどうしようと不安だった。
それでも、それでもどうしてもあのお姫様と話がしたかった。
だがそんなお姫様は隣にいた男の人とどこかに行こうと立ち上がった。
女の子はぎゅっと拳を握りしめて一歩、また一歩と近づいた。
そして……。
「ねえ、ねえ、お姉ちゃん何してるの?」
思い切って声をかけた。
「こんにちは、小さなお嬢さん」
お姫様は嫌がることなくにっこりと微笑んでそれどころかしゃがんで自分の目線に合わせて話してくれた。
「えへへ、お姉ちゃんきれいだね!」
女の子は嫌がられなかったことが嬉しくなって自分の言葉で話せるようになっていた。
そしてこの女の子は一緒に遊ぼうということが出来て、このお姫様とそのお姫様と一緒にいたお兄ちゃんと1日遊んだ。
これはこの女の子にとって初めての経験だった。
それだけでなく自分が転んで膝を擦りむいてしまった時、不思議なことが起こったのだ。
なんと、お姫様が魔法を使ってその傷を治してくれたのだ。
だがそんな楽しい時間も終わってしまう。女の子は悲しくなった……。
もうこのお姫様とお兄ちゃんに会えなくなると思ったからだ。
だがこの2人はまた遊んでくれると約束してくれた。
安心した女の子はそうしてまたあの孤独へ帰って行く。
「あっ、今度はお姫様とお兄ちゃんの名前教えてもらうんだ」
そう笑顔で言いながら。
−−
次回主人公視点戻ります
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