女の子
「頭が割れちゃいましたわ……」
翌日ベットの上でマリアはうめいていた。
「シジミのインスタントみそ汁でも持ってくるよ、待っててね」
「うーん、ありがとうございます」
隣でグロッキーになっているマリアを見て俺はそう言うとマリアは体勢を入れ替えて少しでも頭痛と身体の怠さを弱めようとしていた。
俺はベット横に置いてあったスマートフォンを取って一階へ降りる。
昨日は何とか撃退することが出来たがある程度インターネットで影響力のある配信者ということもあり、その後のインターネット上の動向を見ていた。
やはりマリアが魔法を使ってジャスティスを飛ばした映像がSNSで拡散されていたし、トレンドにも上がっていた。
『魔法エグい』
『異世界』
俺が恐れていたジャスティスが指摘した銃刀法違反と薬については多少陰謀論的な論調で言われているものの、魔法のインパクトが大きく議論の中心はあれはCGか否かであった。
そして俺たちへの批判と言うよりはあのような無理やりな配信を行ってきたジャスティスはその活動内容から強烈なアンチもいるようで『ジャスティス涙目敗走w』などというコメントで埋め尽くされたり、ジャスティス信者が手の平を返して今まで活動を批判したりとジャスティスは活動どころではないようだ。
それだけでなくあの配信でマリアの美しさにファンになった人もあるようで多くの切り抜きが上げられ『マリアたソはオレの嫁』『マリアはオレの隣で寝ているよ笑』『マリアたソの隣にいた男、タヒね!タヒね!』などとマリアの良さに気づいている人もいた。
俺に嫉妬している人もいて子どもっぽいがなんだか優越感を俺は感じていた。
「ふぁぁ……、少しマシになってきましたわ」
ベッドの上でマリアがシジミのインスタント味噌汁をすすっていた。
「良かった、シジミ飲んで少し落ち着いたか?」
俺はベッドの脇に座り、空になったカップをマリアから受け取った。
「ええ、こんなになったのは初めてですから知りませんでしたけどシジミは本当に効きますのね」
マリアはまだ半分寝ぼけたような顔をして伸びをした。
「ちょっとだけ外の風浴びたいですわ」
マリアの顔はまだ少し青い。
「分かった外の空気吸うのも悪くないからね。じゃあ、着替えたら行こうか」
俺はそう言って立ち上がった。
マリアはうれしそうに頷くと、ヨロヨロとした足取りながらもバスルームへ向かう。
「転んで怪我するなよ」
「大丈夫ですわ」
そうしてマリアが準備を済ますまで俺はスマホをいじりながらマリアを待った。
20分ほどして。
バスルームから出てきたマリアはさっぱりとした表情で髪をタオルで拭きながら現れた。マリアの金髪は水に濡れて一層美しい。
ワンピースを着たマリアは素足のまま床をぺたぺた歩く。
「よし準備万端だな、行こうか」
「はい、令のエスコートに期待しておりますわ」
少しだけからかうように微笑みながら、マリアは俺の腕にそっと手を絡めた。
俺たちはゆっくりと家を出て、少し春の暖かな空気を感じながら歩く。
途中買い食いなどして小腹を満たすとマリアがサンダルで歩いていたこともあり、休憩しようかと道中にあった小さな公園に入った。
「風が気持ちいいですわ」
マリアはベンチに腰掛け春の風を感じるようにゆったりと目を閉じる。
「具合悪くなったらすぐ言えよ」
「大丈夫ですわ。もう全快しましたので」
少し休んだ後そんなやり取りをして、そろそろ行こうかと立ち上がった時。
「ねえ、ねえ、お姉ちゃん何してるの?」
見ると5から6歳くらいの小さい女の子が公園の隅から駆け寄ってきていた。
まっすぐマリアに向かって突進するように寄ってくる。
「こんにちは、小さなお嬢さん」
マリアはにっこりと微笑むとしゃがんで目線を合わせる。
「えへへ、お姉ちゃんきれいだね!」
女の子は、ぱっと顔を輝かせて言った。マリアはその素直な賛辞に少し頬を赤らめる。
「うれしいですわ」
「ねえねえ、あそぼう? ね?」
女の子は無邪気にマリアの手を引っ張る。
俺は一応周囲を見回した。だがどうやら親らしき姿はすぐ近くにはいない。
子どもが好きということもあったがこんな小さな子を1人で遊ばせるなんて危ないぞと思ったこともあって、俺とマリアは笑って答えた。
「ええ、遊びましょう」
こうして、俺たちは女の子と一緒に公園で鬼ごっこを始めた。
「まてまてー!」
「きゃー!」
小さな女の子は俺たちから逃げるようにちょこちょこと走る。
マリアもワンピースの裾を押さえながら、サンダルが脱げないように無理のない範囲でその後を追っていた。
だが、事件は突然起こった。
「きゃっ!」
女の子が、地面につまずいて転んだのだ。
「大丈夫か!?」
俺とマリアはすぐに駆け寄る。
見ると女の子の膝が擦りむけて赤く血がにじんでいた。
女の子は堪えきれずぽろぽろと涙をこぼし始める。
「痛いよぉ……」
「大丈夫、すぐ治りますわ」
マリアは優しく言うと女の子の前にしゃがみ込んだ。
そして、そっと手のひらを傷口にかざす。
「《ヒール》」
緑の光の粒子がマリアの手から溢れる。
すると温かな力が女の子を包み傷口がみるみるうちに癒えていった。
「わぁ!」
女の子は目を丸くして、すっかり元通りになった膝を見つめた。
「すごい!痛くない!」
「良かったですわ」
マリアはにっこりと笑った。
女の子は、しばらく傷があった場所を不思議そうにちょんちょんと触っていたがマリアを見上げるとやがて瞳を輝かせて叫んだ。
「お姉ちゃん!あたし、大きくなったらお姉ちゃんみたいになりたい!」
「えっ……?」
マリアは目を瞬かせた。
「きれいで、やさしくて、お姉ちゃんみたいな魔法使いになりたい」
女の子は小さな拳をぎゅっと握りしめた。
「なれる?」
首をこくりとかしげマリアを見上げる女の子にマリアはあたたかい微笑みを浮かべた。
そしてマリアは困った顔で俺を見て、よく考えてから言った。
「うれしいですわ、でもこの力はもっと大きくならないと使えませんのよ。だから貴女はこれからずっといい子にしていて大きくなったら教えて差し上げますわ」
少し心苦しいが魔法をこの世界の人に教えるとどのような影響があるか分からないこともあって教えないことに決めていたため、この子が大きくなれば何かの夢だっただろうと考えると思いそう誤魔化した。
その後も女の子と遊び続けていたがもう日が暮れる時間になっていた。
「そろそろ帰ろうか」
「ええ」
俺たちは日が暮れる前にこの女の子を家に帰さないと危ないとそろそろおひらきにしようとした。だが言葉にはしないがまだ遊びたいのだろう女の子が不満そうで少し泣きそうになっていた。
「また遊べる?」
女の子は泣くのを我慢しながら俺たちに聞く。
「うん、また遊ぼうな!」
「もちろんですわ、こんな可愛らしいお姫様がお望みなら」
俺たちがそう言うと女の子は顔をくしゃくしゃにして笑った。
「じゃあ明日もね、お姉ちゃん、お兄ちゃん!」
「「分かった、明日もまた来るよ」」
女の子はそう言い、俺たちの言葉を聞いて安心したのか1人で帰ろうとしていたが俺たちは家までついて行った方がいいと思いついて行こうとするが女の子は大丈夫近くだからと言って断った。
それじゃあ最後にと、マリアはしゃがんで女の子の頭をそっと撫でる。
「また遊ぼうね!約束だよ!」
女の子が手を振る。
マリアは振り返り、微笑みながら手を振り返した。
帰り道、俺たちは並んで歩く。
マリアはどこか照れたように笑っていた。
「誰かに憧れられるのって、ちょっとくすぐったいですわね」
「マリアは憧れられるくらい立派な人だからな」
「そ、そんな照れますわ」
俺は少しからかうと真っ赤になりながらうつむくマリアの横顔を見ながら、俺はそっとマリアの手を握り帰路についた。
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