第7話 熱く燃える心
「『熱く燃える心』……」
砂漠を歩きながら、タケルは先ほどスナに言われた言葉を反芻していた。何度もその言葉について考えてみるが、やはりその意味するところはタケルにはわからない。『熱く燃える心』……一体どんなものなのだろうか?
イトーヌは、熱い砂の上をぴょんぴょん跳ねながら、楽しそうに周囲の景色を眺めている。フクロウは、相変わらずタケルの背後の影に身を潜め、警戒を怠っていない様子だ。
「よっぽどスナのことが怖いんだな……」
タケルはつぶやいた。
どれくらい歩いただろうか。前方の乾いた砂漠の景色が突然変わり始めた。遠くに緑が見え始め、近づくにつれてそれは鮮やかな緑の帯へと変わっていく。オアシスだ。乾ききった砂漠の中に現れた突然の緑に、三人は思わず足を止めた。
そして、そのオアシスの中心には、荘厳な宮殿が熱い空気の陽炎の中に浮かび上がっていた。白く輝く壁、高いドーム、そしてその周りを囲むように茂る緑。砂漠の中に突如現れた異常な光景に、タケルは息を呑んだ。
「わあ! すごいんぬ! 砂漠の中にこんな綺麗な建物があるんぬね!」
イトーヌは、目を輝かせながら宮殿の方に目を向けた。フクロウも、警戒しながらもその異常な存在に注目しているようだ。
「あれが、次の試練の場所なのかもしれない」
タケルは、慎重に言った。スナが言っていた『熱く燃える心』が、この宮殿の中に隠れているのだろうか?
三人は、オアシスの緑を踏みしめながら、宮殿へと近づいた。熱い砂漠とは打って変わって、オアシスの中は少し涼しく、空気には水の匂いが混じっている。宮殿の前方には、背の高い扉が静かに閉じられていた。
タケルが注意深く扉に手を触れると、突然、重い音を立てて扉がゆっくりと開いた。中からは、ひんやりとした空気と、カビ臭い香りが漂ってくる。
警戒しつつ中へと足を踏み入れた三人の前に広がっていたのは、広い神殿のようだった。壁には、色鮮やかな壁画が端から端まで描かれており、古代の人々の暮らしや神話が生き生きと描かれている。高い天井からは、弱いながらも光が差し込み、壁画を静かに照らしていた。
「わあ……綺麗な絵がいっぱいんぬ!」
イトーヌは、壁画に目を奪われ、あちこちに向けて楽しそうに声を上げている。フクロウは、壁画の内容をじっくり見つめ、歴史の知識を使って意味を理解しようとしているようだ。
タケルは、注意深く周囲を見回しながら、神殿の奥へと進んだ。壁画は次第に不可解なものへと変わっていく。燃え盛る炎、苦しむ人々、そして天秤のようなものが描かれている。
神殿の一番奥の間へとたどり着くと、その部屋の中央に、奇妙な台座が置かれていた。そして、その上には、金色に輝く巨大な天秤が静かに鎮座していた。天秤の片方の皿には、赤い結晶のようなものが置かれており、もう片方の皿は空っぽだ。
「これは……?」
タケルは、天秤を前に立ち止まり、天秤をじっくり観察してみた。天秤の片方の皿に鎮座していたのは、目を奪われるほど鮮やかな、真っ赤な炎に包まれた丸い結晶だった。揺らめく炎は、まるで生きているかのように脈動し、周囲の空気を明らかに上昇させている。
「あれが……『熱く燃える心』、なのかな」
タケルは、その奇妙な結晶から目を離せずに呟いた。『熱く燃える心』――まさに、この結晶がそのイメージに合致する。父親を助けるために必要な『熱く燃える心』とは、これなのだろうか。
意を決して、タケルはその熱された結晶に手を伸ばした。指先が炎に近づいた瞬間、炎の熱が肌を刺す。思わず手を引っ込めた。耐え難い熱さだ。このままでは、結晶に触れることすらできない。
「熱い……! これじゃ、掴めないよ!」
タケルが困惑した声を上げると、背後の静寂を破って、小さい声が響いた。
「無理にゃ、タケル……そのままじゃ」
振り返ると、神殿の奥の暗闇から、スナが静かに姿を現した。以前のように少し警戒した様子だが、その瞳は真剣そのものだ。
「スナ!」
タケルは、突然の出現に驚きながらも、期待を込めてスナを見つめた。
「やっぱり、あれが『熱く燃える心』なんだね? でも、すごく熱くて……」
スナは、静かに首を横に振った。
「あれは、『熱く燃える心』を象徴するもの……穏やかな心では触れることはできないにゃ」
「穏やかな心……?」
タケルは、その言葉に眉をひそめた。
「穏やかな心では触れられないって、どういう意味?」
「激しい思い、純粋な願い……それらが熱く燃え上がった時、真実の『熱く燃える心』は、おのずと姿を現すんにゃ」
スナの言葉は、曖昧で少し難解だった。激しい思い、純粋な願い……それは、タケル自身の中に既にあるものなのだろうか?
その時、イトーヌが天秤の赤い結晶を興味深そうに見つめながら、身体をタケルの方に少し傾けた。
「純粋な願い……タケルは、お父さんを助けたいって、いつも強く願ってるはずんぬ!」
イトーヌの言葉に、タケルは心臓を突かれたような感覚を覚えた。
(父さんを助けたいという願い――それは、誰よりも強く、純粋なはずだ)
「僕の……願いが、足りないって言うのか?」
タケルが不安そうにスナに問いかけると、スナは静かに頷いた。
「ただ願うだけでは、あの炎は消せないにゃ……もっと強い、焼けるように熱い切実な思いが必要なんにゃ」
その言葉を聞いた瞬間、タケルの胸の中に、激しい感情が荒々しく湧き上がってきた。
(父さんの笑顔をもう一度見たい。暖かい声をもう一度聞きたい。そのためなら、どんな困難だって乗り越えてみせる――!)
その激しい思いが抑えきれないほど高まった時、タケルの目の前の赤い結晶を包む炎が、一瞬明るさを増したように見えた。そして、その炎の中から、先ほどまでの結晶とは異なる、より透明で、内側から暖かい光を放つ、ハート型の結晶がゆっくりと姿を現したのだ。
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