第8話 始まりの街 ザイード

ザイードの街に行くことになり服装をどうするか悩んだが、アウトドア系の服は持っていない。キャンプが趣味の部長の矢野さんにおすすめの洋服を相談したところ


「専門ショップは高いからね。最初は働く男がオススメだよ。種類も多いし、なにより安いからね」

「え?作業着とか職人さんの服を扱う店ですよね?」


チチチ、と人差し指を振りながら


「認識が古いね。今はキャンプ用品から普段着まで、それこそなんでも売っているよ。これはアウトドアには向かないけど、そこで買ったんだ」


そう言いながらロッカーからバイク通勤に使ってる靴を持ってきてくれた。


「これね、こう見えて安全靴でね、先に鉄板が入ってるんだよ。丈夫だし専用品より安い。バイク好きな人で働く男で揃えている人もいるよ」


―そうか安全を考えればアウトドア系よりこっちだな。ハーミットもブーツ履いてたしな。


仕事終わりに行ってみると確かにアウトドア専門店より安い。それに種類も豊富。

―というか普段着もここで良くないか?パーカーにデニムにカーゴパンツ全部安いわ。

本来の目的を見失いそうだったのでザイードへお出かけ装備に絞り、装備一式を全部ここで揃えた。



前回約束していた正月連休の初日、堅守速攻が迎えに来た。

この日のために揃えた装備に身を包み、ドヤ顔で堅守速攻のメンバーの前に立つ。


「その格好で行くのか?」


言いにくそうにハーミットが尋ねる。


「もちろん!」

「……本人が納得しているならいいと思うが……」


靴は矢野さんの靴とはちょっと違うセーフティシューズ。上はマジックテープでしっかり固定できるタイプ。

服は上下セット三千四百円のストレッチ作業着。ズボンはカーゴタイプを選んだ。

それに防水のデイバッグと野球帽。


武器代わりは事務所にあった「ひのきのぼう」。

正式名称は金剛杖といってお遍路や巡礼で使うものらしいが、誰が持ってきたかわからないまま長年会社に置いてあった。雰囲気のある文字が入ってる。


「その細い棒は武器なのか?」


ハーミットが訪ねてくる。


「戦うつもりはないし。まあ、気分?」

「役に立つかはわからんが特別な雰囲気はあるな。準備がいいなら行くぞ」


これ以上は無駄だと言わんばかりにサラッと流された。


森を抜けるのに一時間。そこからザイードまで二時間かかって昼前にザイードに到着。普段こんな距離を歩かないことと歩きづらい道に履きなれない靴で、到着したときはヘトヘトになっていた。


遠くから気づいていたが、頑丈そうな塀で囲まれたザイードの街はかなりの大きさで、近づくと塀の端がわからなくなるくらいの規模。何個分かはわからないが、前に行ったことがある東京ドームより大きい事だけは確かだ。


堅守速攻のみんなと一緒にいるおかげで門でのチェックは速攻で終わり、入場料もハーミットが建て替えてくれた。今回の滞在にかかる費用は、今までの食事のお礼として堅守速攻が出してくれることになっている。


堅守速攻の定宿に部屋を取り、少し休憩することを伝えベッドに寝転ぶ。


「ふわ〜、マジで疲れた」


思わず独り言が出る。

運動不足は実感していたが、最近は湖で泳いだり湖畔を散歩してみたり、少なくともアーガスに来る前よりは運動しているつもりだった。

まったく疲れを見せないハーミット達の前だからやせ我慢していたが、本当は限界一歩手前。ベッドに寝転んだらいつの間にか寝ていたらしく、夕飯を知らせに宿の人が来るまで熟睡していたようだ。


「一日潰れた…」


まさかこんなに寝てるとは思わず今日の予定が全部飛んだ。

ガルルが呆れた顔で


「起こそうか迷ったんだぞ?」

「ユーゴは道中ヘロヘロだったからな。そのまま休ませたほうがいいってことになった」

「予定に余裕はあるんでしょ?だったら明日やればよくない?先に食事にしましょう」


気を取り直して食事にする。


「じゃ、とりあえず乾杯だな」

「「「「「乾杯!」」」」」

「ウガッ?!ぬるっ!」


ぬるい上に生くさい。吐き出しそうになるのをこらえて飲み込んだ。

堅守のみんなは苦笑いしながら見ていた。


「あのエールと比べるならそうなるだろうな」


俺の反応にハーミットが当然だなという顔で言うと


「スキッとしてて、冷たくて、うまいもんな!」


あっという間にジョッキをカラにしたセルジオが続く。


テーブルいっぱいに出てきた料理も日本の料理を食べ慣れた俺には微妙で、食べられそうなものをいくつか腹に押し込み早々と部屋に戻った。

奢ってくれている堅守のみんなには悪いとは思ったが、全員日本の料理を食べたことがあるから俺の反応は予測できていたと言って許してくれた。


楽しみにしていたザイードの初日はなんとも微妙な感じで終ってしまった。

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