線の上を歩く

第5話

君の話を聞いた帰り道、浜辺の風がやけに冷たく感じた。

「平行線が、やさしさ」——その言葉が頭から離れなかった。


ずっと近くにいたのに、君はずっと遠くにいた。

それは、君がそうしてたんじゃなくて、君が守ってたから。

大事なものを、誰よりも不器用に。


だけど、だからこそ思った。


君が傷つかないようにと、君が自分を閉じ込めるなら

俺は、その線の上を歩いていこう

君と、同じ速さで。


次の日、僕はいつもより少し早く浜辺に行った。

まだパン屋も開いていない時間、潮の匂いが濃い朝。


そして、ノートを1冊置いた。

中には手紙が一通。


君へ


“平行線”って、ずっと交わらないって言うけど、

数学の世界ではね、“無限遠点”では交わるって考え方もあるんだって。

つまり、“どこまでもずっと一緒にいられたら、いつかきっと交わる”ってこと。


俺は、それを信じたい。


だから、今すぐじゃなくていい。

君のペースでいい。

俺はこの線の上を、君の隣で歩き続けるよ。


君がいつか、手を伸ばしてくれる日まで。


海の風が、ページをふわりとめくった。

遠くに、パン屋の看板が見え始めた。

もうすぐ、君が来る。


今日も同じパンを選んで、同じ場所に座るかもしれない。

だけど、君の隣には、少しだけ違う風景が待ってる。

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