あの日の輪郭はまだ消えない
春崎べあ
プロローグ
【20XX年 神谷直樹 40歳】
試合終了の笛が鳴る。
その一音がスタジアム全体を揺らし、歓声と涙が交錯する瞬間を告げた。
テレビには、日本サッカーの頂点を決める天皇杯を制した「湘南オーシャンアロー」の選手たちが喜びを爆発させ、抱き合う姿が映っている。
俺がオーナーを務める「東京メトロポリタンギャラクシー」は準々決勝で敗退した。
だから俺は、こうして自宅のソファで、テレビ越しにこの景色を見るハメになった。
興奮したアナウンサーが「クラブ創設から23年、一直線に結ばれたその道の先には……悲願の天皇杯が待っていた!」と、ドラマチックに声を張り上げている。
(時間なんてのは、線で繋がっているように見えるだけで、実際はもっと曖昧なものなんだよ……)
画面を見つめながら、俺は思う。
ただ、俺は妹の沙良(さら)以外にはこんな話は決してしない。
知られてはいないが、宇宙空間には惑星の時空を管理するシステムが存在する……
そこでは過去から現在へと時空が川の流れのように進むよう管理されている。
俺は、昔、そこに操作を加えたことがある。
まるで静かに流れる小川に渦を巻き起こすかのように……
「来年は優勝できるように、もっと補強したほうが良いよ」
36にもなるのにまだ子供じみた沙良が、キレ気味にオムレツをつつく。
「あぁ……」
「湘南オーシャンアロー」の選手たちが天皇杯を掲げている姿を見るのは気分が悪いので、テレビを消した。
「天皇杯」……
それを聞くといつも俺は思い出す。
決して交わるはずのなかった2人が、砕けるほどぶつかり、震えるほどの輝きを放った10年前の天皇杯を……
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