第21話

一礼して自分のデスクに戻ろうとすると、矢島さんに声をかけられる。


「…江渡さん、ごめん。」


謝らないといけないのは、私の方です。


そんなこと今更言えない私は、曖昧に笑って首を横に振る。


それに微笑み返す儚い矢島さんの笑顔は、まるで自分を映しているようだった。




「…午後、この件で打ち合わせできる?

なるべく、全てを投げるってことはしないようにするから。外回りとか入ってる?」


「いえ、今日は予定してなかったので大丈夫です。よろしくお願いします。」




自分のデスクに戻って腕時計を何気なく確認すると、もう既に12時半を過ぎていた。


午前中があっという間に終わってしまったことに絶望する。



デスクの2番目の引き出しを開け、ストックしてあるカロリーメイトを手にしようとした瞬間だった。




“…絶対食べて、じゃ無いと絶交するから。“


澄んだテノールが心にじんわりと響応して、私はその手が止まる。


絶交ってなんなの本当に。



ふ、と溢すような息遣いの後なんだか思いがけず泣けそうになってしまった。



ミツ。


確かに私は、心が疲れてるのかもしれない。


 

朝来た時、フロアに設置されている共同の冷蔵庫にお弁当を入れておいたのだ。


それさえも、この数時間で、仕事を片付けようとするうちに忘れてしまったのだと気づく。



「__絶交されるのは、嫌だなあ。」


その呟きが漏れた瞬間。


山積みの資料も、どんどん溜まるメールも。

その全部から勇気を出して目を離した。



そして私は、冷蔵庫からタッパーを取り出して、オフィスを飛び出した。

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