第20話
「__
急に部長にそう名前を呼ばれて私は返事も忘れて、硬直した顔のまま、視線を上げる。
椅子に座ったまま手招きされた私は、ゆっくりと部長とその傍で立つ矢島さんに近づく。
全身の穴という穴から汗が吹き出しそうだった。
そのくらいじんわり確実に、自分の体温を奪っていくヒヤリとした感覚に襲われる。
「…な、んでしょうか。」
「このPRの企画、矢島から引き継いでくれ。」
「………え、」
「矢島は同時に2つをこなすのが難しいみたいだから。優秀な江渡なら大丈夫だろ?」
違うよ。
矢島さんは、その取引先から、凄く信頼されてる。
彼のタイミングできっと新商品のアプローチだって考えてるはずだ。
だけど、私には、そんなこと、言えない。
チラリ隣の矢島さんを見ると、あまりに苦しそうにクシャリと顔を歪めていた。
乾き切った唇を少しだけ舐めて潤した後、私は顔をあげた。
「_わかりました。」
「うん。よろしく。」
部長は満足そうに笑って、その数秒後にはもう自分のモニターに視線を移していた。
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