第三話
夜の高級ホテルのラウンジ。柔らかな灯りに包まれた席で、葵と隼人は明日の最終対決について話し合っていた。
「銀座のレストランにご主人を呼び出すの?」
隼人が確認する。
「ええ。私たちが最初に会った場所。人目もあるし、万一のことがあっても大丈夫」
「そこで、すべてを明かすんですね」
「そう。私が浮気してないことも、あらゆる証拠が揃ってることも、そして離婚の意思もすべて」
隼人は一瞬黙り込んだあと、小さく息をつく。
「いよいよ明日で終わり、ですね」
「ええ、明日ですべてが決まる」
葵はグラスを見つめ、言葉を噛みしめた。
沈黙が訪れ、二人は互いを見つめ合う。ホテルの上品な照明が、その距離をほんの少し温かく照らしていた。
「葵さん」
隼人が意を決したように口を開く。
「計画が演技だとしても、僕はあなたへの気持ちが本物になってしまいました。あなたの強さや誠実さに触れて、惹かれずにはいられないんです」
葵の胸がどきりとする。隼人のまっすぐな告白に、彼女は瞳を揺らした。
「私も、あなたと過ごす時間が心地よくて……でも、明日までは答えられない。最後まで終わらせないと」
隼人はうなずいた。
「わかっています。急かす気はありません。ただ、僕の気持ちを知っておいてほしかったんです」
二人のあいだに再び、静かな空気が流れる。ラウンジのピアノ曲が遠くで優しく響き、明日のクライマックスを予感させるような緊張感と、わずかな安堵が入り混じっていた。
「明日、すべてが終わるわ」
葵は決意を込めて呟く。
「何があっても、僕はあなたの味方です」
隼人がそっと葵の手を握った。
その温もりに、葵は力をもらうような気がした。自分が選んだ道に迷いはない、と確信できる。その夜は真由美の家に戻り、早めに休む。翌日こそ、自分が長く準備してきた復讐と再生の物語の頂点を迎える日になるのだから。
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