僕の人生逃避行

@hatopopo2232

序章

「十六の夏、あたしはこの都市を壊す」

「・・・は?」

「その時が訪れるまではあと二年、あたしはできるだけの準備をする。もし、瞬がこのあたしの計画を止めたいと思うのならば、受けてたとう。ただ、あたしと同じように君も準備をすることをおすすめするよ」

「どういう、ことだよ?」

「簡単さ、君には前も言っただろう?この世界は狂っている。耐えて耐えて耐えて、生きようと何度も思ったさ。ただもう無理なんだ。だからこそ、あたしは世界を壊し、この世界の創造神に抗ってみようとおもったのさ」

話し方も、表情も、俺を助けてくれたあの人であって、あの人じゃない。

「最終的な目的は世界を壊すことだが、その前哨戦として、夏川瞬」

「・・・」

「君と、この都市を使ったゲームをしようじゃないか」

「・・・」

「この年の人間を生かすも殺すも君次第だ。健闘を祈るよ。そうだね、まずは」

「君の身近な人間から狙おうか」

そう言った彼女は、次の日から姿を消した。表向きには、親の都合での引っ越しとして。

いくら悔やんでも、僕のことを名前で呼んでいた彼女はもういない。




少し前まで笑顔で話してたあの人も、今は明確な敵だ






舞台は東京。

高校生二人による

約千四百万人の命を懸けたゲームが・・・


始まる





「...ぉーい」

「おきろー!」

「おきろおらぁ!」

「ヴッ!」

大きな声と同時に頭に強い衝撃が走り、強制的に目が覚める。

「いってーな!」

そういいながら顔をあげると、ジト目でこちらを見ている山田莉緒と目が合った。

「あんたさ、ここがどこか分かってる?」

「学校だな」

「そうだよね。じゃあその学校でずっと寝ていた不真面目くんはだれかな?」

「俺だな」

何を当たり前のことを聞いてくるんだ。

「開き直るんじゃないの!」

「いだいっ!」

「まったくもう、どうしたら寝ずに授業を受けてくれるのか・・・」

莉緒は溜息をつきながらそんな事を言ってくる。授業で寝ない方がむずいだろ。

「眠くなるんだから仕方ないだろ。むしろなんでお前は寝ないでいられるんだ」

「普通授業はちゃんと受けるものなのよ。成績もちゃんととらなきゃ留年しちゃうよー?」

煽るような口調で言ってくる莉緒。ちなみに前回の期末試験の結果は俺が12教科で976点。莉緒が386点だった。

「僕よりもテストの点が低くて留年しそうなのはどっちかな」

「うっ」

さっきの顔とは打って変わり、いたずらがばれた子供みたいな顔をする莉緒。

(・・・こいつ黙ってれば可愛いんだけどな~)

否。それ以外がてんでダメなポンコツである。みんな、顔がいいだけの奴には騙されちゃだめだぞ。

「なに?なんかいった?」

「なんも言ってねーよ。お前はどんな耳をしてるんだ」

普通に心を読んでくるのやめてほしい。

・・・ただ、実際のところ彼女は可愛いと思う。

ポニーテールが似合うスポーツ系女子。

誰とでも親しく接する真の陽キャで、何事においても偏見を持たずフラットに物事を見ることができる、社交性の塊のような人物だ。

「なにじろじろ見てんのよ。閲覧料とるわよ」

「意味わかんないことを言い出すな・・・。金欠なのか?」

「うっさい」

どうやら図星のようだ。それもそのはず、こいつが学校で俺に話かけてくるときの九割は俺に何かを頼む時だ。

「お前が俺に話しかけてくるとき、大体は何かを頼みに来る時だからな。で、今回は何をお願いしに来たんだ?」

「なっ!失礼なこと言うわね!ただ暇だから寝ているあんたを起こして私の暇つぶしに付き合わせてるだけ!」

「いやいや、俺みたいな陰キャと話すことなんてないだろ」

要件がないとわかった今俺がここにと染まる理由はない。こいつと話すと確実に三十分は逃げられないので棘のある発言をし、この会話を終わらせにいくとしよう。

「陰キャって自分で言っちゃうんだ」

「うるせーな。自分での学校の立ち位置ぐらい知っている」

俺が陽か陰かで聞かれれば間違いなく陰のほうだし陽の世界は自分には合っていないということも知っている。俺は結局平凡な生活ができればいいのだ。

「まあ確かにうちは友達多いとは思うけどさ、ああいうノリをずっとしてると疲れるんだよねー。そういう時はあんたとか優希と喋っていた方が楽なの。」

いつも明るい莉緒からこんな言葉を聞くとは思わなかった。彼女にも人間関係で疲れると思うことがあるのか。

「じゃあ彼氏の優希とずっと喋っていればいいだろ」

「今は優希は部活でいないの。あと、毎日話してるにきまってるじゃん。それともなに、妬いちゃった?」

「しね」

俺の幼馴染の優希と莉緒は約一年前から付き合い始めた。両方から相談を受けたりしていたためさっさと付き合っちまえと思っていたが、二人の恋が実ったと聞いたときは素直に喜んだ。そんな二人は学校でも毎日のようにいちゃついていて学校でも有名な存在だ。だからこそ優希だけと話していればいいと思ってしまう。そうしたほうが、俺にとっても楽だから。

「だいたい、俺なんかと話しても面白くないだろ」

「またそうやって自分を卑下して」

「そんなん昔からそうだったろ」

「今は今よ!青春を楽しまないと」

「やだよ。実際ここでできた友達なんて大人になったら合わなくなるんだ。意味ないだろ」

他人が嫌いというわけではない。友達がたくさんいる人を見たら楽しそうだと思うし、うらやましいとも思う。それでも、俺は友達を作るわけにはいかない。もし友達なんかを作ってしまったら、巻き込んでしまうから。

きっと、自分の罪も吐いてしまう。だからこそ、友達を作らないんじゃなくて作るわけにはいかない。

たぶん莉緒にはこの発言に含まれた本当の理由もばれているだろう。ただ、莉緒はこのことについて何もいってこないはずだ。言ったら俺が離れていくと知っているから。

「それでも!」

すこし漂っていた暗い雰囲気をかき消すように、机をバンと叩く音と同時に立ち上がった莉緒が大声で叫びだす。

「高校生なんて人生に一回しかないんだよ?アオハルだよ!甘酸っぱい恋!部活で芽生える友情!楽しまなくてどーすんのよ」

「高校生活には甘酸っぱい物語と友情が必要なんてだれが決めたんだ。だれかと協力してもしなくても全力で物事に挑戦できる奴は青春してるといえるだろ」

青春と聞くと、誰もが莉緒が言ったようなものを想像すると思うが、実際のところそのようなことを経験する奴はほんの一握りだけだ。今の高校生における青春はイメージが固定されていて、それをみんなが経験するものだという風潮があるが、そんなのは間違っている。一人で努力をし、結果を出すやつもいるが、一人で頑張っている者たちのなかには、支えてくれる人がおらず、途中で挫折する人もいる。そんな人達を支える人間、環境がないのはおかしいことだ。

「それは何かを成し遂げようと頑張っている人が言うセリフよ。」

「なんでその中に俺は入っていないんだ」

「・・・・・」

「・・・・・?」

「えーーーーーーー!?」

俺が莉緒の発言に抗議の声を上げると、莉緒が目を見開き驚く。

ほんと失礼だなこいつ。

「あんたもにもやりたいことができたの!?」

日本語がおかしくなってる莉緒が、期待のまなざしでこちらを見てくる。それもそうだ、

俺はいままで自分のしていることを他人に話すことはなかった。

こはたして今の俺たちは友達と呼べる関係なのか。友達といっても、隠し事の一つや二つあるはずだ。それが俺の場合沢山あるってだけで何ら不自然じゃない。

「そんな目で俺を見るのはやめろ。明るすぎて死ぬ」

「あんたは吸血鬼かなんかな訳?で、何をするの?」

「いつかいうよ」

「えー。教えてくれたっていいじゃーん」

「今こうやってお前と喋っているのもかなり頑張ってんだ。勘弁してくれ」

「まあ昔を考えるとよくなった方かもねー」

そんな懐かしむような言い方をする彼女の声は、さっきと違い数トーン下がっていた。彼女にとってもいい思い出ではないのだろう。

「いやぁーあんたも成長したねー」

わざとらしく明るくしゃべる莉緒。こういうとこだけ不器用なんだよな。

「お前は俺のおかんか」

「だって昔のあんたなんて。うちらのことずっと無視してたじゃない」

「・・・あん時は仕方ないだろ」

俺の過去は良いとは言えるものではなかった。

あの人の件とは違う、過去のとある出来事のせいで、誰とも話さないくらい塞ぎ込んでいた時期があった。

ただ、そんな中でも莉緒と優希はずっと話しかけ続けてくれた。拒絶する俺にほぼ毎日のように会いに来てくれて、励ましてくれた。そのおかげで、今俺はこうやって二人と喋れるまでの関係に戻ることができた。

二人以外とはまだ友達を増やそうとは思わないんだけどな・・・

「別に責めてるわけじゃないよ?ただ懐かしいなーって思ってただけ」

「そうかよ」

そこからはいつも通りの雑談をする。授業の話や、優希との惚気話など、「普通」の友達らしい会話をする。本来ならばすぐに話をやめようとしたことを、俺はこの時には忘れてしまっていた。そうして少し時間がたつと、彼女は教室のドアの方に歩き出す。

「じゃあ、あたしは帰るから。あんたも早く帰りなさいよー」

「分かってるよ」

「あ、そうだそうだ。最後に言いたいことがあるんだけど」

「なんだよ」

「なにか抱えている問題があるのなら誰かに言いなさいよ。それじゃあね~」

俺が莉緒に対して何かを言う前に。彼女はそそくさと教室をあとにしてった.

やっぱり気づかれてたか。莉緒は俺と同じく人の表情などから何を考えてるかを予測することができる。顔には出さないように注意していたが、それも彼女の前では無意味だった。

そうして一人残された教室で色々なことを考える。

きっとあいつは途中、俺のことを気遣って楽しい話に変えてくれたのだろう。

本当にいいやつだ。

「はぁ~」

ただ、思い出したくないことまで思い出してしまった。

出来れば思い出したくなかった記憶。

今の僕が僕であるすべてが、あの一年に詰まっている。

そのことを考えれば考えるだけ自分に嫌悪感を抱いてしまう。

この体のだるさは、何が原因なんだろうか。

過去を思い出したから?さっきまで寝ていたから?どれも近いが正解ではないような気がする。その答えを出すのが、今の俺にはできない。いや、きっとしたくないのだろう。俺の体の奥底に眠っている本能が、思考を遮断させてくる。

(屋上にでも行くか)

こういう時は屋上に行って気分転換をするのが、いつもの過ごし方だった。

負の感情を吐き出すかのように深呼吸をし、俺は教室をでる。

そのまま廊下を歩き、立ち入り禁止のテープを越えて屋上のドアを開ける。

あいつは俺の過去をよく知っているが、さっき見た夢のことは知らない。これは誰の力も借りるわけにはいかないからだ。

「〜♪♪」

開けたドアの向こうで、一人の女子生徒が歌を歌っていた。

どこかで聞いた事のあるような、透き通る声。

繊細な声でいて、力強い。彼女の想いが伝わってくる。まるでアイドルのような歌声。

さっきまで考えていたことを無に帰した、そんな彼女の声に夢中になっていると、

ドンッ!

「ひゃあ!」

自分を操る手がなくなったドアが勢いをつけて閉まり、彼女の情けない声を奏でる。

そうして振り返った彼女と目が合う。

「・・・・・」

「・・・・・」

無言のまま、彼女は近づいてきた。体が金縛り状態かのように動かない。どうやら俺の人生はここまでらしい。

「感想は?」

「は?」

「だから、私の歌を聞いた感想は?」

この場合、なんて言えばいいんだ?ただ単純にすごいとか浅はかなことを言ったら俺の命はないだろう。だからと言ってこの圧だ、無視もできない。つまりこれは、詰みか。あきらめて適当に返そう。

「きれいだと思ったぞ」

「何がきれいだった?」

そんなん歌声以外にないだろ。こいつばかかよ。

これはまた長い間話に付き合わされるやつだ。ただでさえ莉緒と話して疲れているのに、こいつとまで話している余裕は俺にはない。ここは話題を変えて早々に出て行ってもらおう。

「そんなことよりここは立ち入り禁止の場所だぞ。優等生はこんなとこにいないで早く帰れ」

こいつの喋り方、顔を見るにこいつは陽キャだ。きっとそうに違いない。

俺はなるべく不愛想に喋ることを意識する。

陽キャに俺の領域内に入られたら負けだ。

「そんなことよりってなに?しかも立ち入り禁止の場所だっていうならそれは君だって同じでしょ?」

どうやら簡単には見逃してくれないらしい。

だがここで負けるほど俺は弱くない。

「いいから早く帰れ」

「だーかーらー!何が綺麗か言ってくれるまで絶対に帰らないから!」

言葉だけじゃ引いてくれないか・・・

こうなってしまった以上俺に出来ることはひとつ。今日屋上にいれないのは仕方がないが、やるしかない。

俺の特技第二位。早急に逃げることだ!

そうして俺はドアノブに手をかけ屋上から逃げようとする。

「まて」

そんな賭けもむなしく彼女の声と同時に腕を掴まれてしまった。自分の判断と俊敏性に欠ける身体を恨む。でもあれ?五メートルくらい離れてたよね?

「は・や・く言って?」

(目が怖ぇ!)

メンタル弱い奴だったら泣いてるぞこの顔は。

「分かった。言うから手を離してくれ」

「そう言って離したら逃げるつもりでしょ?離すわけがないじゃん」

そりゃそうだよな...

彼女はバカだと思っていたが意外に頭が回るみたいだ。

「観念していいなさい!」

「・・・お前の歌声だよ」

口に出して言うと少し恥ずかしいな。

「ほんとに!?」

「あぁ」

「そっかそっか。ふーん。えへへ。それで、どんなとこが綺麗だと思った?」

彼女は俺の言葉にめちゃめちゃ満足していた。

なんて答えようとか考える前に、僕の口から言葉がこぼれる。

「分からない。気づいたら口に出ていたんだ」

「ほんと〜?まあ今回はそれで許してあげる」

命が助かると人間はこんなに安堵するのか。

そう思ったのもつかの間、

「ねえ」

彼女から話しかけられる。ただ、今回の声のトーンはさっきとは違い、感情がない。喜。怒。哀。楽。この四つの感情は少なくとも当てはまらないだろう。だったら彼女が発した二文字に込められた感情の正体は?

「君はさ、人間って何のために生きると思う?」

そんなことを考えてることなど知らず、彼女は言葉を続けていく。

哲学的な問いだ。この問いに正解はない。回答者の生き方によって答えが変わってくる。

そんな問いを、彼女は初対面の俺に聞いてきた。むしろ、初対面だからこそ聞いてきたのかもしれない。今後会うかもわからない奴だからこそこんな質問を投げかけてきたのだろう。

「急に意味の分からない質問をしてくんな」

「意味なんて分からなくていいよ。君の心が、細胞の一つ一つが思ったことをそのまま口に出してさえくれればいい」

「そんなのこと言われてもわからねぇよ」

「そっか、じゃあ何も考えなくていいから私の言ったことをしてほしいな」

彼女の質問に対して俺は考えもせずに突っぱねた。なのにも関わらず、彼女は顔色一つ変えずに俺に微笑みながらそう言ってきた。幼稚な俺と大人な彼女。その対比関係は俺をどんどん惨めにさせていく。

「目を閉じる。ゆっくり息を吸って、吐き出す。そうして自分の心に問いかけるの。生きる意味とは何か?」

「・・・俺は」

口が、勝手に動いていく。

決して彼女に心を許したわけではない。それなのに、頭では考えていない言葉が、口から洩れる。

「生きる意味を探すために生きているんだと思う。」

「・・・」

「言葉を喋れないところから始まって、時間とともに経験を積んでいく。その過程の中で自分が生まれた意味を探すのが人生で、それが生きる意味だと俺は思う。」

・・・果たしてこれは、自分の本音なのか?彼女の言われた通りにしただけで、自分の口から言葉が出てきた。その事実が今の俺を困惑させる。

「そっかそっか。」

さっきまで相槌を打ちながら、静かに俺の話を聞いていた彼女が口を開く。

「君の考えもいいと思う。ただ、私は君とは少し違う考えなんだよね。」

そういいながら彼女は俺に背を向けて歩き出す。

その背中はすごく小さく、とても重いもの背負っているように見えた。

「きっと、人生において生きる意味なんてないと思うんだ。私の中で人生はパズルと一緒なの。自分の人生の中で数えきれないほどの出会い、別れ、選択を繰り返していって自分だけのパズルのピースを増やしていく。そうして命尽きるまでに一枚のパズルを完成させるの。ピースの枚数、完成したパズルの色。すべてが違ってそれぞれの人によさがある。だから、人生なんて結局のところ生きる意味なんて最初はなくて、自分で作っていくものだと思うんだ。」

「・・・」

「こんな偉そーに喋ったけど、この話は知っての通り答えがない。ただ、私はこういう話題が好きなの。」

俺に何か言わせることもなく、彼女はドアの方に歩き出す。

そして俺とすれ違うその刹那

「また、縁があったら話をしようね。あと、」

彼女は俺の手を引っ張って体を密着させ、耳元でささやく。

「このことは、二人だけの秘密だよ?」

何事もなかったように屋上から出ていく姿を、俺はその場から動けずに見守っていることしかできなかった。

(ほんっとうに心臓に悪い・・・)

そんなことを思っていると、バタンとドアがしまり、本来求めていた僕だけの空間が広がる。

辺りに静寂が訪れるが、僕の頭の中からは、最初の彼女の歌声が離れないでいた。

(どこかで聞いた事があるんだけどな...)

必死に考えるが、いくらたっても思い出せない。

ただ、僕にとってとても大事な事だった気がする。

僕は考えながら目を閉じ、耳を澄ます。小さく聞こえてくる運動部の声、音楽室から漏れる楽器の鳴き声、楽しそうな会話をしながら帰る人。聴覚から伝わってくる情報一つ一つが、自分が青春のど真ん中にいることを伝えてくる。

(縁があったらまた会おう、か)

どうやら俺は、彼女の考えを読み間違えたらしい。もう会うことはないと読んで本心で答えたが、この関係はまだまだ続きそうだ。

・・・これからどうしよう。

(はぁ。そろそろ帰るか)

いくら悩んでも仕方のないことだ。すっかり気分も変わったし家に帰るとしよう。



「ただいまー」

「・・・」

この家に、俺の帰りを迎えてくれる人はいない。

(腹減ったな)

一度こう思ってしまった以上、俺の体は自然に冷蔵庫へと向かっていく。人間の三大欲求とは怖いものだ。扉の先に広がっているだろうオアシスに期待を膨らませながら、俺はただの冷蔵庫を開ける。

・・・何も無い。

どうやら俺が想像していたものは蜃気楼だったらしい。

買い出しを忘れていた自分が憎い・・・

学校から帰ってきたばっかな今、コンビニに行く気力もないので、部屋着に着替えてベットに飛び込む。

腹が減っては戦はできぬとはこのことか。

人は不思議なもので、そんなにお腹がすいていても、ベッドに入ってしまえば自然と睡魔が襲ってくる。

僕はその睡魔に従い、目を瞑りながら今日を振り返る。

いつもの日課だ。これをすればすぐに眠りにつくことができる。

最初に思い出したのは莉緒と話した事。

僕を支えてくれた幼なじみ。

僕を救ってくれた恩人。

ただ、莉緒に対して僕は何もしてやれていない。

もっとも、社交性にあふれているあいつに、俺が自ら手を差し伸べて助けることはないんだけどな。それでも、彼女の助けにはなるべく応えてあげたい。それは今も昔も変わらないことだ。

次に思い出したのは、屋上の事。

俺は彼女が何学年なのか、クラスはどこなのか、何も知らない。

ただ、彼女とはまた会う気がする。考え方も、性格も、何もかもが真反対であろう彼女と僕。これからどうなっていくのだろうか。そんなことを考えても答えは出てこない。

彼女に何も悟られないように、彼女に心を許さないようにしないと。

そう思いながら俺は、深い眠りにへと沈んでいく。

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