## パート9: 三位一体の初仕事
目の前の出来事に呆然としていた僕だったが、いつまでもこうしているわけにはいかない。スライムは消えたが、ここはまだ危険な森の中だ。それに、この新しい仲間――ぷるなを放っておくわけにもいかない。
「ぷるな、大丈夫か?」
僕はもう一度、できるだけ穏やかな声で話しかけた。彼女はまだ自分の腕を見つめていたが、僕の声にはっと顔を上げる。
「さっきは驚いただろうけど、もう心配ない。俺たちがいる」
「……よーすけ……ごびー……」
ぷるなは僕たちの名前を呟き、不安そうに瞳を揺らす。
「俺たちは今、薬草を集めるっていう仕事をしてるんだ。ぷるなも、一緒に来てくれないか? 君の力が必要になるかもしれない」
本当は、まだ彼女の能力も性格も何もわからない。だけど、見捨てるなんて選択肢はなかった。
ぷるなは僕の言葉の意味を完全に理解しているかは分からなかったが、僕が差し出した手を見て、少し迷った後、おそるおそる小さな手を重ねてきた。ひんやりとした、不思議な感触だった。
「……うん」
か細い、だが確かな返事。ゴビーが、少し複雑そうな顔でぷるなを見ているのに気づいたが、今はとにかく進むしかない。
「よし、じゃあ、薬草探し再開だ。次は陽だまり苔だな」
僕は気持ちを切り替え、ゴビーと、そして新たなる仲間ぷるなと共に、再び森の探索を開始した。
陽だまり苔は、その名の通り日当たりの良い岩場に生えるという。僕たちは森の中でも比較的開けた、岩がごろごろしている場所を探して歩いた。
「ボス、あそこ! ゴブ!」
ゴビーが岩の上を指差した。見ると、太陽の光を浴びてキラキラと金色に輝く苔が、岩肌に張り付いている。間違いない、陽だまり苔だ。しかし――
「結構高いな……それに、岩の隙間にも生えてる。手が届きにくいぞ」
僕が手を伸ばしても届かない場所や、狭すぎて手が入らない隙間にも苔は生えている。採取目標は五つ。どうしたものか。
僕が困っていると、ぷるながおずおずと僕の袖を引いた。
「あの……よーすけ……ぷるな、できる、かも……?」
「え?」
ぷるなはそう言うと、岩の隙間に向かって、そっと自分の腕を伸ばした。そして、先ほどのように、腕の先端から肘にかけての部分が、ゆっくりと水色の液体状に変化していく。それはまるで生き物のように形を変え、狭い岩の隙間へと滑り込んでいった。
「おぉ……!」
ゴビーも僕も、感嘆の声を上げる。液状化したぷるなの腕は、器用に苔を絡め取るようにして、そっと引き抜いてきた。手のひらの上で液体から元の腕に戻ると、そこには見事な陽だまり苔が握られていた。
「すごいぞ、ぷるな! ありがとう!」
僕が礼を言うと、ぷるなは少しはにかんで、嬉しそうに俯いた。彼女の能力は、戦闘だけでなく、こういう探索でも役に立つようだ。ぷるなのおかげで、僕たちは難なく陽だまり苔を必要数採取することができた。
残るは「静寂茸」だけだ。これは湿った倒木に生えるらしい。僕たちは少し薄暗く、湿った空気の漂う森の奥へと進んでいった。
順調に依頼が進んでいることに、少し気が緩んでいたのかもしれない。倒木を探して歩いていると、突然、前方の茂みから唸り声と共に黒い影が飛び出してきた!
「グルルルァァッ!!」
鋭い牙を剥き出しにした、中型犬ほどの大きさの黒い狼。森狼(フォレストウルフ)だ! いや、まだ少し小さいか……子供かもしれない。だが、その目には明らかな敵意が宿っている。どうやら、縄張りに侵入した僕たちを敵とみなしたらしい。
「くそっ、戦闘準備!」
僕は咄嗟に短剣を構える。
「ゴビー、攪乱を頼む!」
「わかった! ゴブ!」
ゴビーは持ち前の素早さで狼の側面へと回り込み、注意を引きつけようとする。
「ぷるなは俺の後ろに!」
怯えて立ちすくんでいるぷるなを庇うように前に出る。だが、森狼の子はゴビーの陽動に惑わされず、真っ直ぐに僕を目掛けて突進してきた!
速い! 短剣で受け止めきれるか!?
僕が身構えた瞬間、僕の前にいたぷるなが、恐怖に顔を引きつらせながらも、何かを決意したように両手を前に突き出した。
「いやぁぁっ!」
彼女の足元、地面の一部が瞬間的に水色の粘液状に変化し、浅い水たまりのようになる。突進してきた森狼の子は、それに足を取られてバランスを崩した!
「今だ!」
狼が体勢を立て直そうとする一瞬の隙。回り込んでいたゴビーが、鋭い爪(ゴブリン由来か?)で狼の脇腹を浅く切り裂く!
「ギャンッ!」
狼が苦痛の声を上げ、動きが鈍る。そこへ、僕は渾身の力を込めて短剣を突き出した!
グサリ、という鈍い手応え。短剣は狼の首元に深く突き刺さり、狼は短い悲鳴を上げてその場に崩れ落ち、動かなくなった。
「……はぁ……はぁ……やった、のか……?」
荒い息をつきながら、動かなくなった狼を見下ろす。ゴビーもぷるなも、緊張した面持ちで僕を見ていた。ぷるなはまだ少し震えている。
これが、三人での初めての戦闘。連携はぎこちなく、僕自身も危なかった。だが、勝った。ゴビーの素早さ、ぷるなの予想外の妨害能力、そして僕の最後の一撃。それぞれの力が合わさって、魔物を打ち倒すことができたのだ。
「……ふぅ。ゴビー、ぷるな、二人とも、よくやった!」
僕は疲労困憊だったが、確かな達成感が胸に込み上げてくるのを感じていた。ゴビーは「へへん!」と得意げに胸を張り、ぷるなはまだ少し怯えながらも、僕の言葉にほっとしたような表情を見せた。
チームとして、僕たちは大きな一歩を踏み出した。依頼達成も、もう目前だ。
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