## パート8: 「ぷる」っと自己紹介
僕とゴビーが呆然と見つめる中、目の前の少女――元スライムは、戸惑ったように自分の両手を見つめ、それからおそるおそる自分の体、着ている水色のラインが入ったセーラー服に触れた。そして、か細い声で、こう呟いた。
「……ぷる?」
まるで自分が何者なのか、あるいは状況そのものを問うかのような、不思議な響きを持った言葉だった。緑がかった髪のゴビーが最初に発した「ゴブ?」という言葉を思い出す。変成した存在は、最初にこんな風に、自分の存在を問うような音を発するのだろうか。
「きみは……」
僕が警戒しながらも声をかけると、少女はびくりと肩を震わせ、怯えた小動物のように数歩後ずさった。大きな青い瞳が不安げに揺れている。敵意は感じられないが、極度に怯えているのは明らかだ。
「大丈夫、怖がらなくていい。俺は敵じゃない」
できるだけ優しい声で、ゆっくりと語りかける。ゴビーの時と同じように。彼女にも、この少女にも、元は魔物だったとはいえ、今の姿に罪はないはずだ。
僕の態度に少しだけ警戒を解いたのか、少女は後ずさるのをやめた。だが、まだ不安そうな表情は消えない。
「きみの……名前は?」
尋ねてみると、少女は不思議そうに小首を傾げ、やがて力なく首を横に振った。やはり、名前などないのだろう。
どう呼ぶか……。彼女が最初に発した「ぷる?」という音。ゴビーと同じように、そこから取るのがいいかもしれない。スライムっぽい響きでもあるし。
「じゃあ……『ぷるな』というのはどうかな?」
「……ぷる、な?」
少女は、自分の名前を確かめるように、おそるおそる反芻した。
「ぷるな……ぷるな……」
何度か呟いた後、少女は僕の顔を見て、そして、小さくこくりと頷いた。どうやら、気に入ってくれたらしい。
「そうか、ぷるなか。俺は陽介。こっちはゴビーだ」
「よーすけ……ごびー……」
ぷるなは、まだ辿々しいながらも、僕たちの名前を繰り返した。少しだけ、場の緊張が和らいだ気がした。
その時だった。
ぷるなが、ほっとしたように息をついた瞬間、彼女の片腕――白く細い腕の一部が、不意にぐにゃりと形を崩したのだ。まるで水飴のようにとろりと形を崩し、透き通った水色のゼリー状に変化した。床にぽたりと雫が落ちる。
「「!?」」
僕もゴビーも息を呑む。ぷるな自身も、自分の腕に起こった異変に気づき、「ひゃっ!?」と小さな悲鳴を上げて腕を振った。すると、液体状になっていた部分はすぐに元の白い肌に戻ったが、彼女は信じられないものを見たかのように、自分の腕を何度も見つめている。
「今の……」
間違いない。スライムが持っていた、体の形状を変化させる能力の片鱗だ。ゴビーの場合は身体能力や五感の強化(?)だったが、ぷるなの場合は、もっと直接的にスライムの特性を受け継いでいるのかもしれない。
「ぷるな、だいじょぶ? ゴブ?」
ゴビーが心配そうに、しかし僅かに警戒するような視線も混ぜながら、ぷるなに声をかけた。
ぷるなはゴビーの声にびくりとしたが、こくこくと頷く。
(液状化……? まさか、全身をスライムみたいに変化させられるのか?)
だとしたら、それはとんでもない能力だ。物理攻撃はほぼ効かないだろうし、狭い隙間を通り抜けることもできるかもしれない。
ゴビーとはまた違う、ユニークな力。宝珠は、変成させる魔物によって、異なる能力を持つ少女を生み出すということか?
僕は、目の前のまだ少し怯えている少女――ぷるなを見つめながら、この新たな出会いがもたらすであろう、未知の可能性と、そして新たな波乱の予感に、再び驚きと、そしてわずかな興奮を覚えていた。
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