第4話
「ここだな、頼まれたクエストの場所は」
数時間かけて私達はキジョの街から東に大きく飛んだ先にあるダンジョンまで来ていた。自然に出来た物から人工的な物までダンジョンの種類は幾つかあるが、ここはどうやら一つの洞窟がダンジョン化した物のようだ。
「さて、早速仕事と行くか」
「はい。姐さん、一応クエストの内容をおさらいしておきますか?」
「そうだな。その方がいいだろう」
私はレナードから渡されたクエストの書類を取り出し、その内容を確認した。
「このクエストの名前は“二つの一つ目”。要約すると、ギガンテスのはぐれ者を二体討伐するクエストのようだな」
「なんだか二つなのか一つなのかハッキリしない名前ですねえ。というか、ギルドのクエストってそんな風に一々名前がついてるんですか?」
「そうだ。今のグランドギルドのギルド長が就任直後に名前から内容を察しやすくなるようにと考えてそうし始めたそうだ。もっとも、中には一風変わった物もあるぞ。“黒風の支配者”とか“魔の道化師”とかな」
「そこまで来ると聞いてみた感じ強そうという情報しかないじゃないですか。まあ名前から内容を察しやすくしたところで今回みたいにダメだった奴らもいるわけですけどね」
「そうだな。本来これはAランクのクエストらしいが、Bランク相当でありながらいきがった連中が周囲の注意を振りきってこれを受け、まんまと返り討ちにあったそうだ」
アレックスは呆れたように首を横に振る。
「そんなのソイツらの自業自得じゃないですか。それでそのいきがってた冒険者達はどうなったんです?」
「ほうほうの体で逃げ出したそうだが、全員が大ケガをしていてしばらくは冒険者稼業に精を出せない程だそうだ」
「まあギガンテス二体となればそれくらいの覚悟を持たないといけませんしね。んじゃあ行きましょうか」
「ああ。私達も気を付けていこう」
松明に火をつけてから私達は歩き始めた。奥にギガンテスがいるにしては道中で見つけたモンスターはFランクやEランクでも倒せる程度の強さばかりであり、ヒューマンの姿でありながらもその気迫で圧倒するアレックスの姿にモンスター達は震えながら逃げていった。
「やはりアレックスがいると低級のモンスター達は逃げていくようだな」
「モンスター達の場合、すぐに相手の強さに気づかないと自分の命に関わりますから。ヒューマンの姐さんの前で言うのもあれですけど、ヒューマン達のように勇敢と蛮勇をはき違えるような奴はモンスター達にはいないってことですよ」
「私達もそうありたいものだな。さて、このまま進めばギガンテスがいる広場があるはずだが……」
辺りを見回しながら歩くこと数分、拓けた場所に出るとそこには情報通りにギガンテスが二体いたが、その他にも血の臭いに誘われてきていたのかシルバーウルフ達の姿もあった。
「やはりか……こういった後始末の時にはこういう事がよくあるんだ」
「なるほど……やられた冒険者達は最悪アイツらの腹に収まる末路を辿るわけですね」
「そうなるな。さて……では行くぞ!」
「はい!」
アレックスが銀色の鱗を持ったドラゴンの姿に戻っていく中、私はすぐさま駆け出す。その足音を聞いたギガンテスやシルバーウルフ達がこちらを向く中で私は早口で詠唱を終えた。
「『
風の力で自らの速度を上げる『瞬足魔法』によって私は更に駆けながらギガンテスの目の前で跳び上がる。その速さにどうやらギガンテスはついていけないようで、突然目の前に現れた私の姿にギガンテスは言葉通りに目を丸くしていた。
「お前達に恨みはないが……この剣で討たせてもらうぞ!」
投げ捨てた松明の火が剣を煌めかせる中、私はギガンテスの首に剣を振るった。だが、ギガンテスの肌は並みの剣ではやはり切り裂けない程に硬いらしく、ガキンという音が広場に反響した。
「くっ……やはりこの程度の剣ではゴブリンぐらいしか一撃で討ち取れないか。アレックス、そっちはどうだ!」
「とりあえずシルバーウルフは全員倒しました! あとは片方のギガンテスをやるだけです!」
「わかった! 私に構わずお前はギガンテスの討伐に集中しろ!」
「了解です!」
アレックスがギガンテスとの戦いに集中し始めるのを確認してから私は剣の刀身に手を置いた。
「『
一時的に剣の切れ味を高める『鍛冶魔法』によって剣はその煌めきを増し、私はこれなら行けると確信した。
「さあ来い、ギガンテス!」
「オンナ、オマエタオス!」
ギガンテスは大きなこん棒を振りかざし、それを力いっぱいに振り下ろしたが、そこに既に私はいない。しっかりその攻撃を見切った上でその頭上に移動していたのだ。
「残念だったな、ギガンテス。この一撃で終わりだ!」
ギガンテスはすぐさま頭上を見たが、時既に遅し。私の剣の切っ先が既にギガンテスを切り裂かんとするために落下していたのだから。
「『
事前に氷の魔力を宿らせていた剣がギガンテスの身体をまるでバターを切るかのように切り裂いていき、そのまま真っ二つにした。
「よし、これで――」
「姐さん!」
その声に振り返ると、手負いのシルバーウルフが私の喉笛を狙って飛びかかってきていた。やられる。そう覚悟したその時だった。
「アンタ、何しようとしてんのよー!」
ヴァージニアの声が聞こえた同時に広場には紫電が走り、シルバーウルフと“アレックス”を襲った。
「ルガァ……!」
「な、なんでオレまでー!?」
そしてシルバーウルフが足元に落ち、地面に落とされたアレックスがシクシク泣く中、ヴァージニアは私に近づいてきた。
「アンタ、大丈夫なの!?」
「ああ、大丈夫だ。心配をかけたようだな」
「しっ、心配なんか……! でもまあ……怪我がなさそうでよかったわよ」
「ああ、ヴァージニアのお陰だ。ありがとう」
私が頭を撫でると、ヴァージニアの顔がみるみる内に赤くなる。この洞窟の温度がそんなに高いのだろうか。
「ヴァージニア、どうした。そんなにこの洞窟の温度が高かったか?」
「べ、別にアンタに頭撫でられて嬉しいんじゃないんだからー!」
ヴァージニアの怒りのこもった声が広間に響き渡る中、私は首を傾げるしかなかった。
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