第3話

 翌朝、私はアレックスを連れてギルド長のレナードのところに向かっていた。因みにアレックスは私が借りている空き家に空いている部屋があったのでそこに住まわせる事にした。それをヴァージニアは何故か怒っていたようだが何故だろうか。



「相変わらずヴァージニアの怒りの理由がわからないな。アイツ、あんなにいつも怒っていて疲れないのだろうか」

「リサ姐さん、本当にヴァージニア姐さんが怒ってる理由がわからないんですか?」

「わからないな。何か怒ってると思えばブツブツ何かを言う事が多いのはわかるんだが、それくらいしかわかる情報がないな」

「この人マジか……」



 頭が痛いのかアレックスは歩きながら頭を抱える。昨晩飲みすぎたのだろうか。



「まあヴァージニアの事は後でいい。とりあえずレナードはギルドの執務室にいるだろうから挨拶をして登録をしたその足で何か適当なクエストに臨もう」

「わかりました。因みにオレは冒険者ってのは未経験なんですが、Fランクのクエストはどんなのがあるんですか?」

「ゴブリンやアルミラージの討伐や奴らの肝とか角の採取がFランクのクエストで、私の場合はよそのギルドのクエストで失敗した奴らの後始末もやっているな」

「クエストの後始末……なんですか、それは?」

「自分の実力に見合わないクエストを受けようとする奴や実力もないのに余裕だと高を括る奴も中にはいて、ソイツらが失敗する事で本来なら温厚なモンスターも凶暴になったりその地域が変に荒れたりしてしまう。だからそのモンスターを代わりに討伐したり土壌などを直したりするんだ。お前は私と組む事になるだろうからそういったクエストを一緒に受ける事になるぞ」

「なるほど……ギルドのクエストって思っていたよりも色々な事をするんですねえ。まあでも、オレもそれなりに実力はありますからしっかりとお手伝いは出来るはずですよ。姐さんの足手まといにならないように頑張らせてもらいます」

「ああ。頼りにしてるぞ、アレックス」



 話しながら歩くこと数分、私達はキジョの街のギルドに着いた。そしてドアを開けると、カウンターには他の職員と一緒に立つヴァージニアの姿があった。



「おはよう、ヴァージニア」

「ヴァージニア姐さん、おはようございます」

「ん? ああ、アンタ達。クエストならいっぱいあるわよ」

「それもそうだが、まずはアレックスをレナードに会わせたいんだ。レナードは来ているか?」

「執務室にいるわ。着いてきて」



 ヴァージニアの後に続いて私達は歩き始める。そしてノックをしてから執務室に入ると、そこにはボサボサのブロンド髪に細身のメガネの男が仕事をしていた。



「レナード、いま大丈夫か?」

「ん……おや、リサ。そちらは……ああ、昨日に襲撃してきたドラゴンですか。気配ですぐにわかりますよ」

「姐さん方、このレナードって奴も実は只者じゃなかったします?」

「レナードも以前は冒険者をしていて、ランクはSだったんだが、その戦い方が常軌を逸脱していたそうで、それで組んでくれる冒険者がいなくなった上にコイツを野放しにはしておけないという事でギルド側が職員として登用して今はここのギルド長をしているわけだ。だから、お前が立ち向かったところで簡単に返り討ちに遭うからな?」

「立ち向かいなんてしませんって。それで、リサ姐さんの手伝いとしてギルドに登録したいんだが、オレみたいな奴でも構わないのか?」



 レナードはダルそうな様子で答えた。



「ええ、構いませんよ。ここに登録している冒険者の数は少ないので、増えてくれる分には助かりますから」

「やっぱり冒険者は少ないんだな、ここ」

「こんな場所だからね。それに、アンタはドラゴンなんだから飛んで色々なところに行けるしきっちりこき使わせてもらうわよ」

「ええ、それは構いませんぜ。オレもここに世話になる以上、しっかりと働く気なんで」

「ああ、頼んだぞ。さて、それじゃあアレックスの登録をお願いしていいか?」

「ええ。ですが、少々時間がかかるのでその間に後始末を一つこなしてきてもらいましょうか」



 またどこぞの冒険者が無茶をしたのか。そんな事を考えながらため息をついていると、執務室のドアがノックされて一人の青年が顔を出した。



「ギルドちょー、グランドギルドからの報告書が来てま……って、まーた髪をそんな風にしてるんすか?」

「アルバートですか。その書類ならこちらに置いておいてもらっていいですよ」

「髪の事無視しないでくださいよ。ほら、整えてあげますから」



 職員のアルバート・オルグレンがどこからかブラシを取り出してレナードの髪を整え始めた。



「すみませんね、いつも」

「そう思うなら自分でも整えてくださいよ。まったく、戦う時はかっけーのに普段となるとこうなんだから」

「面倒なんですよ、一々整えるのは。だからあなたみたいに気遣ってくれる人は大歓迎です」

「そういう言葉は違う時に聞きたかったすけどね……」



 そうは言うが、アルバートの表情はどこか嬉しそうであり、レナードもアルバートに髪を整えられてまんざらでもなさそうだ。



「姐さん、アイツは?」

「アルバート・オルグレン。ここの職員の一人で、アルバートもよそから来た奴だ」

「へー、アルバートの奴も強いんですか?」

「ああ、強いぞ。というのも……」



 その時、アルバートの片目の目付きが鋭いものに変わった。



『アルバート、そろそろ我に暴れさせろ』

「ダメだって、シヴォー。お前が暴れるとすぐにその辺焼け野原になっちゃうだろ」

『邪神である我に平和など似合わぬ。早く我を暴れさせろ』

「お前、本当に暴れるのが好きだよな……」



 アルバートから二つの声が聞こえてくる中、それを聞いていたアレックスは信じられないといった顔をし始めた。



「姐さん、アイツの様子なんかおかしくないですか?」

「アルバートは体内に邪神を封じ込めているんだ。それでその力を使って戦えるが、その力があまりにも強大でな。普段はなだめすかしてどうにか抑えてるんだ」

「ここ、色々な意味でヤバイ奴らの巣窟なんですね……」



 アレックスが苦笑いを浮かべながら言う中、レナードは一枚の書類を取り出した。



「これですよ、あなた達にお願いしたいのは」

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