第2話


【バビロニアチャンネル】のオフィスに戻ると、アイザック・ネレスとライル・ガードナーがいた。


「よう、おかえり」

「割と早かったじゃん。あの聖人君子の説得は手こずるかと思ったのに」

「アレクシスどうだった?」

「ええ、多分明日は僕たちの邪魔はして来ないと思います」

「意外に思えるかもしれんけど、あいつはやっぱりユラが可哀想なんだろうな。

 それにお前の気持ちも分かってるんだよ」

「……ええ」

 小さくシザは頷いた。

「他の方々は?」

「全員オッケー。会社の許可取れてない人何人かいたけど、構わないってさ」

「そうですか」

「向こうはどうなってる?」

「とりあえずグレアムが車両通行予定のコースは教えてくれました。僕なりに襲撃しやすいポイントは予測を立てましたが、出来れば空港で決着が付けばいいですね」

「護送の規模も分からんからなあ。ユラがどういう感じで連れて来られるのかも分からんし」

「ユラちゃんが手錠されてるの見ていきなりぶちぎれてドーベルマンみたいに突っ込んで行かないでよね」

「お前怖いこと言うなよ……! すげー有り得そうな怖いことを!」

 アイザック・ネレスが鳥肌の立った二の腕を摩っている。


「いいんですよ。お二人は。襲撃は僕とグレアム・ラインハートでやりますから」


「おっさんはクビになったら再就職手こずるだろうから明日はお留守番してなァ」

「てめーらクソガキが二人でピヨピヨ言ってんじゃねえよ。俺はお前ら悪ガキのお目付け役だって何万回も言ってるだろ! 例え事件に関わらなくても、お前ら暴走させた時点で俺は怒られるんだよ!」

「それはそれは」

「ゴシューショーさまぁ~」

「俺がクビになったら百万ドルくらいくれるんだろうなシザ君」

「いいですよあげますよ」

「今の見たか⁉ はっきり嘘ついたぞこいつ!」

「先生、ユラちゃんにもっかい段取り話しといた方がいいんじゃないの」

「今頃グレアムがしてますよ。それにどうせ明日話せるようになる」

 ライルは肩を竦めた。


「ユラが来る前に部屋を片付けておきたいからもう帰ります。

 では明日」


◇   ◇   ◇


 開いたエレベーターに乗り込み、扉が閉まろうとしたところ、外から突然足が挟まってもう一度扉を無理に開いた。


「うーん 間に合ったラッキ~♪ 俺も乗せて乗せて! これからデートなんだ~」


 一体何の保護色なのか分からないような、黄色いヘビを首に巻き付けたライルが乗り込んで来る。

 シザは一度彼の方を見たが、すぐに手元のPDAの映像投影のニュースに視線を戻す。

 ライルは禁煙のマークがついた前で堂々と煙草に火をつける。

「やめてくださいよ。こんな密室でそんなモン吸うの。

 僕がまたユラに喫煙を疑われて心配されたらあんたのせいですよ」


「……んで? 先生、どうすんのよ」


「なにが」

「明日以降」

「……。」

「決めてんの?」

「まだ何にも決めてませんよ。ユラが戻ったら、ドノバンと話をして色々決めるつもりです」

「ふーん。」

 すぐにエレベーターが一階に付く。

「お先ィ~」

「ええ。お疲れさまです」


 今日はバイクで来たらしいライルと、反対の駐車場に歩き出したシザの背に、笑い声が響いて来る。

 振り返るとライル・ガードナーがこっちを見ていた。


「あんたやっぱ嘘つくのものっすごく下手だよな」


「……なんのことだか分かりませんね」


「いいよいいよ。あんたの好きなようにやってみなって。

 正解なんて誰にも分かんねえんだし。

 俺みたいな頼りになる相棒いてよかったなぁ。

 あんたに何かあっても、ユラちゃんはこの俺様がしっかり面倒見てあげるからさ~」


「例え僕が死んだって貴方にだけはユラを頼みませんよ!」


 いつもながら鮮やかな応酬を返され、陽気な笑い声を響かせてライルは立ち去って行った。


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