第三十二話  俺のせい

 傍らの竜は片目を失ったまま倒れ伏せ、蛇女は髪を裂かれおおよそ会話が通じる状況ではない惨状。


 そんな中佇む、初老が一人。



「ふむ……ここまで残っていたとは」



 誰の血で染めたか分からない髭を掻き、酷くつまらなそうにエニ達を見つめる男。

 傍らの少女は目が充血しており、先ほどまで泣いていたのだろうかと思わせる腫れがくっきりと残っていた。



「アイツヲコロセ」


「コロセ」

「コロセ」

「コロセ」



 残党の処理を買って出た魔物達は、全員が怒り狂い理性を失いかけていた。目が真っ赤に染まり、いつか見た狼男さんと同じような気迫を見せていた。



「イクゾッ!!!」



「「「「「オ”ォォ”!!」」」」」



 それに続けて攻め立てようと足を踏み出しかけたエニは魔強化バフによる五感の強化、並びに親和性の高さによる第六感の強化による危険察知を通じ



 半歩踏みとどまった。



「利口な子だ」



 エニはそう言ったように見えた。

 声は聞こえない、なぜなら



 悲鳴が鳴りやまなかったからだ。



「「「「「ア”ア”ァ”!!」」」」」



 一体いつ間合いに入ったのか。


 攻め込んだ魔物達の足、腕、頭は的確に斬り落とされており、刃長より遥かに遠い間合いから斬られるなんてこれっぽっちも思考に無い魔物達は、ただ悲鳴を叫ぶ以外の選択肢を取れなかった。



「聖騎士を舐めてもらっては困る」



「聖騎士??」



「おや、今時珍しい子だ。我々を知らないなんて」



 エニの脳は混沌に堕ちていた。


 家族を皆殺しにされたことによる怒り、悲しみ、この国を守っていた聖騎士の犯行という衝撃と疑問、全てが相乗効果で理解不能なカオスを生み出していた。



「君のような利口な子供まで手にかけたくはない」



 そう言いながら剣をゆらゆらと揺らす。

 剣は青白い光で発光し、血が瞬く間に蒸発している。



「ははっ、気になるかい?」



「それで皆を斬ったのか?」



「私の愛剣『アスカロン』だ。”それ”ではないよ」



「斬ったかどうかを聞いているんだッ!!」



「言わないと分からないかな?」



「お前ッ」



 ふざけた物言いに更に一歩踏み出す。

 だが、その一歩がエニを地面に叩きつけた。



「おいおい、しっかり歩かなければ転んでしまうぞ」



「え、え」



 突如として体全体が壁に押し付けられているような感覚に陥った。何かと思えば、壁だと思っていたのは地面。



 一体なぜか、思考が回る前に答えが返ってくる。




「そうか、足が無かったのか。それは失礼した」



「あ、ああ……俺の足がっ」



 両足が膝下から綺麗に切断されている。


 吹き出す血と離れに転がった足が途方もない現実を見せつけてくる。ギリギリ発狂していないのは、現在進行形の怒りと脳が絶えず発する鎮痛効果のおかげか。



「時にだ、利口な子よ」



「は、は?」



「このあたりで、額に角を生やした少女を見たことはないか?大体そうだな……あの葉のような青緑色の髪をしていたと記憶しているのだが、心当たりは?」



「知らない」



「そうか、知っているのか」



「知らない」



「とぼけなくていい、私はそういう嘘が嫌いなんだ」



 男の右手が一瞬消えたように見えた。

 そしてエニは右肩に熱いものを感じる。



「出血死する前に問いたいんだが、可能か?」



 右腕を斬られた。

 

 両足に加え、右腕を斬られた痛みで悶絶する。あまりの痛さに呼吸が出来なくなり、視界がぼやける。



「もう一度、聞く」



「知ら……ない」



「嘘をつくなと、言ったハズだが?」



 鉄製のブーツがエニの腹にめり込む。

 そのまま地面を弾んで木々にぶつかった。



「ふう……君は義理難い人間なのだな」



 そう言って、男は再度剣をゆらゆらと揺らす。



「我が剣の錆となりなさい」



「殺すなら、この老いぼれを殺せ!!!」



 竜がエニの惨状に耐え切れず、声を荒げる。不意打ちを狙って息を殺していたが、耐え切れなかった。



「貴方は生け捕りの方が利用価値がある、しばし待たれよ」



「お前達は我々を家畜や鼠と同格に見るような倫理の欠ける猟奇的殺人集団だ!!」



「聖騎士と呼んでくれたまえ」



「聖騎士などど戯言を抜かすな!!!」



「会話は疲れる、貴方はそこで寝ていろ」



 そう言って、瞬く間に竜の意識を刈り取る。

 極めて華麗で、水面もような落ち着きの剣舞。



「さて、話す気はあるかな?」



 殺すという文字が正装して近づいてくるような違和感の塊。言葉はどれも聞き触りの良いように発してはいるが、内容はどれも透明な殺意が籠っている。


 その一歩一歩が余命を現していた。



「では、さらばだ」



 そう言って男は剣を走らせた。







「ダメッ”ェ”!!」



 突如として走りこんできた。

 青緑色の髪を靡かせた少女。



「久しいな666番、探したぞ」



 それを見て、男は口角を上げた。

 その笑みは、まさしく邪悪だった。



「我らが追い求めし可能性の化身。そしてかの伝説の存在の先祖返り――そうお前は」






 彼女の名前はリーベ、禁忌である外れで暮らす







「悪魔だ」

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