第二十六話 失恋
「俺、騎士なんだ」
「騎士……?」
ぽかんとするリーベ。
それを見て彼はふふんと笑う。
「おうよ、だから俺はたくさんの人をまもるために、いまパトロールしてるんだ」
「へぇ」
「今日は俺一人だけど、いつもはなかまもいるんだぜ」
「すごいね」
仲間から褒められることはあっても、他人から褒められたことは少ない。
リーベの無関心さから来る褒め言葉が、枯れた心によく染みる。
「へへっ、だろ」
「騎士ごっこをしてるんだ」
「ちがう!おれは正義の騎士だ!」
「なるほどねぇ」
「ほんとうに思ってなさそうな顔だな」
「ばれちゃった、てへ」
抜群の破壊力に思わず顔に赤ませる。
「お前ー!!」
「あははっ」
新鮮な感覚だった。
エニ出会う前にも集落には子供がいたが、リーベとは価値観がまるで異なる人ばかりでリーベがお姉さんのような立場を取ることは少なかった。エニと出会ってからはエニがお兄さんのようにリーベをリードすることが多く、対等な目線で物事を見ることが出来ていなかった。
「お前、なにわらってるんだ?」
「さぁ、どうしてだろうね」
彼女には彼がまるで弟のように映った。
だがこの感覚を彼女は言語化できない。
「私、そろそろ迎えに行かないといけないの」
「だ、誰かまっているのか?」
「そうだね、待ってる」
「そ、そいつは、か、彼氏ってやつか?」
あくまでも好奇心の延長戦上のつもり。
だが冷静に見れば、相当な挙動不審ぶりだった。
「……家族だよ」
ヴィンセントにはその言葉がやけに悲しく聞こえた。
家族に対して、いい思い出がないのだろうかと勘繰る。
「気持ちは分かるよ、つらいよな」
「え」
「もっと愛してほしいんだろ?その家族に」
「なんでわかるの?」
リーベは目を見開いた。
「そりゃ……俺も同じだからだよ」
「私と……同じ?」
「ああ、同じだ。かっこわりいこと言ってるのはわかってるけどな」
そう言ってヴィンセントはリーベから視線を切る。
何か遠くのモノを見るように、視界を青と白で染めた。
「与えるものは与えてもらって、自由なせいかつをして、わがままもなんだかんだ聞いてくれて……でもそうじゃないんだよな」
「愛情」
「そう、愛なんだ。俺はずっと——愛がほしかったんだっ」
何かを悟ったように、ヴィンセントは強く言葉を吐いた。
女の前で泣くのはかっこ悪い、でもなぜか涙が止まらなかった。
「でも、あの人は俺をまるで他人みたいに見てる。そんなのあんまりだろッ」
「ヴィンセント……」
「あの人にとっての俺は……なんなんだ?」
「……本当に、私と一緒」
「俺はどうすれば……愛してもらえるんだッ」
仲間内にも誰にも零したことのない心の錆。
初めて会ったのにも関わらず、彼女ならわかってくれる気がした。
「ほら、元気出して」
ヴィンセントの頭に小さな手が置かれる。
そのまま、ゆっくりと髪を揺らす。
「子供扱いするなよ」
「ダメなの?」
「いや……今は許す」
「そっか」
辛い時、悲しい時も一人で抱えて飲み込んでいた彼にとって、この些細な行動一つがどれほど力になるのかを、リーベは知らなかった。
「仲間がいて……俺うれしい、ありがとう」
「そうだね、私こそありがとう」
誰かにお礼を言ったのも、誰かからお礼を言われたのもいつぶりだろうか?
芽生えた感情がじくじくとその背中を焦がし、
「な、なあ……聞きたいことあるんだけど」
「ん、なあに?」
「お前……好きな人とかいるのか?」
彼にしては相当勇気を振り絞った質問と言える。
そのせいか、彼の顔は耳まで真っ赤に染まっていた。
それを見て、彼女はニコリと笑う。
「さっきの話で何となく分かるでしょ?」
「え?」
「え、私おかしいこと言ってる?」
「え、さっきって……家族だぞ」
勿論、この会話は初めから成立していない。
リーベが、義理の家族であり他人でもあるエニを好いており、当の本人からは妹のように思われていることに悲観した現状と、ヴィンセントの親達が親としての愛情を一切注がず、重度の愛情不足の状態に陥っている現状。
かけ離れているが、愛してほしいという面では一致している。
「私……好きな人がいるの」
これが彼の事実上、初めての失恋であり
同時に、彼にとって最後の失恋となる。
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