第二十四話  家族

「リーベちゃん、今日も来てくれたのね」



「エニもいるよ、今は壺運んでるからちょっと待ってて」



「ありがとうね。さぁ入って」



 エニの両親がリーベによって外れに召喚されて、早一年が過ぎた。

 リーベは急激な成長を見せ、エニと左程刈らわぬ背丈になっていた。



「背伸びたわねぇ、成長期だとしてもびっくりだわ」



「なんでかな、エニがいるからかな」



「ふふっ」



 青緑色の髪には更に艶と光沢を宿し、元から端正だったのが誰もが振り返る絶世の美少女へと変貌と遂げていた。一年足らずの時間でこうも変わるものなのかと、子育てにあまり頓着がない彼らは特に気にしていなかった。



「ただいま、色々野菜とかも持ってきました。どこ置けばいいですか?」



「そうねー……リーベちゃん、いつもの出来る?」



「おまかせあれー」



 リーベの呪文で持ってきた野菜が瞬時に凍り付いた。


 瞬間冷凍の便利魔法、野菜や魚、肉などもこれで一発。集落のみならずエニの家庭にも訪れた保存革命であり、リーベの素行が目を瞑られている理由の一つでもある。



「今日はいつまでいられるの?」



「特には決めてないですね」

「そうだね、夕飯食べたくらいにする?」



「わかったわ、気合入れて作っちゃいましょ」



 人には人の文化が、魔物には魔物の文化がある。


 衣食住という大まかなカテゴライズは同じだが、細分化していった先にはそれぞれの文化の一端を見ることが出来る。このエニ一家と魔物達の集落による文化交流は、高い頻度で濃密に行われており、それぞれが相手の理解度を深め友情と信用を育んでいた。


 彼らはお互いを親愛なる隣人として迎え入れていた。



「ちょっとリーベと町行ってきます」



「いってらっしゃい」



 またリーベの魔法力がこの一年で留まることを忘れたため、透明化や転移等の精度が格段に上昇する。そしてまた一つ、新たな魔法を生み出していた。



「いつものやってね」



「へーんしん」



 変身魔法。


 読んで字の如く、対象の人、者、魔物を詠唱者のイメージのままに変身させる魔法。姿形しか変えることは出来ないが、その効果は絶大だった。



「リーベ、ほらこれあげる」



「美味しそう、あーんして」



「はい……どうぞ」



「そこはあーんでしょ」



「うそです、あーん」



「あーん」



 エニとリーベは姿を変化させ、誰にもバレることなく町を闊歩していた。


 集落で読む本を買い、食べ歩きをして、時折桃色の空気を醸し出す。

 変身魔法は燃費が悪く再発動までの時間が長いので、こういうことが出来る時は限られている。だがその限られたひと時が、彼らの距離を縮めていた。



「リーベ、楽しいか」



「うん、私楽しいよ」



「町って外れに比べれば狭いはずなのに、こんなに大きい」



「大きいね」



「日が落ちる辺りの場所見える?あの地平線を超えた場所に王都がある。この町の十倍も二十倍も大きい街なんだってさ」



「そうなの!」



「しかも天を貫くように伸びるお城があるんだってさ。入りたいとは思わないけど、見てみたい気もするな」



「私も見てみたいな、いつか」



「一緒に行こう、また皆に迷惑かけちゃうかもだけど」



「私が魔法でどうにかする」



「俺も、あの時に比べたら全然強いし、理性を失った魔物なんて一発さ」



「嘘」



「流石に嘘」



「「あはは」」



 互いに笑い落ち着くと、そこは静寂。

 少しずつ欠けていく夕日を眺める。



「俺は今、12歳だ。まだ子供だし一人立ち出来る術も力もまだない」



「そうなの?」



「そうだよ、まだ全然。でもいつかは一人立ちして仕事して、稼いで、結婚して、子供を育てていく」



「……」



「この時間を過ごせるありがたみを、この夕日を見てると感じるんだ」



「そうだね」



「何回ここにまた来れるか分からないけどね、だから」



「また、行きたいね」



「うん、行こう」



「二人で」



「そうだね、二人で」




 リーベは悩んでいた。


 明確な自我と論理感が芽生え、本を読んで世界が広がった今だからこそ向き合わなきゃいけない。気づかなかった昔の方が、まだ幸せだったのかもしれない。



 エニにとって、リーベは妹のような存在。

 大きくなっても、それは変わらなかった。

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