第十五話 隙間
「ミレーヌ……また食事を作ったのか」
「あ、あはは。やーねっ私ったら。まだあの子がいると思い込んで……」
「いいんだ、俺が弁当としてもっていく」
「あら……ごめんなさい、あなた」
「あやまらなくていい」
この一家は貧しいながらも幸せな家族だった。
献身的で皆に尽くし愛を惜しまない母親と、厳格で仕事主義だが大黒柱として責任を全うする父親。彼らに恵まれた二人の子宝はすくすくと育ち、一人は母譲りの魔法の才能を開花させ、一人は難解な体質で生まれたがめげずによく働いた。
子を国立学校に通わせる為に、家計を切盛りしながら生活をする。
決して裕福ではない、だが不幸せでもない、彼らは毎日を懸命に生きていた。
—―だが数十日前、予期せぬ事態が起こる。
『父さん、母さん、俺はこの家から離れた別の場所で暮らすことにしました。日雇いの仕事を続けられるかは分からないけど、一応、いつか四人で行こうと思ってた旅行のための貯金を隣の袋に入れておきました、自由に使ってください。井戸の水は毎日夕方に届けます、顔は諸事情で合わせることが出来ません、ごめんなさい。三人とも愛しています。
追記:2人共体調に気を付けてくださいね
エニより』
その日、母親は倒れた。
父親はその日工房を休んだ。
「エニは帰らない、それ以外はない」
「でも、あの子がこんな事になったのは倒れた当日のことよ」
その日、彼らは行方不明届けを提出した。外れで行方不明になった場合、調査隊が結成されるのを待つしかない。
「関係がないとは言えない、だがエニは元気だ」
「どうしてそう言えるの?もしかしたら運んでいるのはエニじゃないかもしれないのよ!?もしエニに成り代わって水を運んでいるのだとしたら、私許さないわよ」
蝋燭の残火のような魔力がゆらめく。
「落ち着けミレーヌ、エニは元気だ。現にいつの間にか横の小屋の土くれが増えているし、エニの部屋から本が少しずつなくなっている」
「!!!」
「小屋の土には小さい手形もあった。少なくともエニは一人じゃない、それに誰も入れようとしなかった小屋に入れるくらいには、仲が良いらしいからな」
「……ならなぜ私たちと会わないの?」
「理由があるんだろう」
「同じ屋根の下にいるのに顔も見れないなんておかしいわ」
「エニが選んだことだ」
「そう…だけど」
「今は待つ、待っていよう」
今日も彼らの一日が始まる。
その横にエニはいない。
「びんぼー野郎、どこ行ったんだ」
外れから数十歩離れた道を歩く少年。
彼の名はヴィンセント=オリバー、傲慢な性格と出自の関係でこの一帯の子供たちを牛耳っているガキ大将だ。今日もお付きのように二人の少年を侍らせている。
右手に持つ小枝の名前はエクスカリバー。大昔の聖騎士団と悪魔との大戦を終焉に導いたとされる
ちなみにだがエクスカリバーは日替わりで今回は47代目だ。
「はぁ…つまんねえの」
口元には庭先に生えていた花の茎の部分を千切ったものを咥えている。
父が葉巻たばこを咥えているので、彼ながらに真似した結果だ。
「しらけちまうぜ」
彼はエニが行方不明ということを知らない。情報を仕入れようとする脳がないからなのか、はたまた
「おれの正義は、ただしいものをまもるから正義なんだぜ」
「さすがオリバー様っ」
「正義の騎士っ!」
「そうだろう、さぁ俺についてこい」
今日の予定は町内一周パトロール、いつも変わらぬ予定だが依然と比べて変化があった。本来エニが通っているはずの外れへのルートと交わる回数が増えている。
その理由は彼にも分からない。
今日もヴィンセントはエニに会わなかった。
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