第十四話 葛藤
真っ暗な森を一人で歩いている。
魔物は基本的に日中が活動時間なので、夜間は安全なことが多い。基本的に護衛を連れていないと満足に横切ることもできない環境ではあるが、夜間だけは安全に通ることが出来る。
だから昼の内に侵入者用の対策を積んでおく必要ある。
例えば、毎日朝方に地面へ突き立てている楔とか。
「どこまで行くのだろうか」
今日は比較的風が強い、木々の騒めきが足音を隠し、匂いを遠くへ運んでくれている。そのせいか少し肌寒い、もう一枚上から羽織ればよかった。
「もう少し我慢してね」
籠の中に入れられた蟲は淡い光で足元を照らし、小さくその場で回っている。この蟲は集落の大事な光源であり、生活の一部となっている魔物。
「止まった?」
暫く歩いて、狼男さんの足がピタリと止まった。
傍らにうずくまって、何かを漁っているようにも見える。
「よく見えない」
大きな背中が邪魔でよく見えない、狼男さんの手元が見えるように回り込んでいく。大分遠回りになるが、これで見えないということはないだろう。
慎重に慎重に転ばないように進む。
一歩、また一歩と進むと——光の筋が見えた。
「月明りが」
雲がズレて木々を練って光の筋が森を通っていく。
真っ暗だった森に、生気が注入されているようにも見えた。
「ここは……あの時の」
赤燐の薔薇が咲き誇る、屍の巣窟。
死体はまだ新鮮な色味で照らされている。
「ここでなにを?」
そう思いながら手元を注視する。
狼男さんは両手の平を合わせ、頭を下げながら何かを喋っているらしい。
後頭頭が邪魔で顔が見れないし、この距離が声も聞こえない。
もう少しだけ近づく。
そして、この判断を呪った。
「すまない、すまない、本当にすまない、同志よ、同胞よ。二人を助けるためとは言え君たちの命を奪った責任は重い、すまない、本当にすまなかった……どうか、どうかこの手を許してくれ」
彼は泣いていた。
奮える身体を必死に抑えつけながら大粒の涙を地に落としながら、今にも折れそうな声で必死に罪を述べ謝罪と許しを請いていた。
「ゆるしてくれ……本当に、本当にすまなかった」
暫くの嗚咽と謝罪を経て、彼は地面を掘り始めた。
大きな穴を一人一つずつ、丁寧に穴へ運び込む。
それを何回も、何回も繰り返した。
「家族を守ることが出来なかった俺は糞だ、俺が間違っていた」
そうして全員分の墓が出来上がった。
「俺はもう二度と家族を傷つけさせない、君たちに誓う」
踵を返し、集落への帰路を見定める。
「またどこかで」
その目は、いつもよりずっと弱弱しかった。
—――――—――――—――――—――――—――――—――――—――――—
「おかえりなさい」
「起きていたのか、早く寝ろ、明日も早いぞ」
自分が一部始終を覗いていたことを悟られないように気を付けて帰った。
何とかバレていないようで、内心ほっとしている。
「どの口で言っているんです?」
「この口だ……で、何か要件でもあるのか?」
「いやぁ、鼾がうるさくてどうせ寝ても起きるかなぁと思って」
「その思考はどうにかならんのか?」
「素かもしれないです」
「そうか、で要件はなんだ?」
「俺を鍛えてほしいんです」
誰かを守れないまま、守られ続けるのは嫌だ。
もうリーベに情けない姿を見せたくはない。
「……断ると言ったら」
「毎日足に縋りついてお願いするのを繰り返します」
「お前最悪だな」
冗談交じりで言ったが本気だ、本気でしつこくお願いする。
狼男さんも、俺が冗談を言っているわけではないと気づいたらしい。
「本気か」
「はい」
「そうか」
それだけ言うと、狼男さんは毛皮と羽毛作りのベッドに体を預けた。
何も言わないのかよとつっこみたくなったが我慢だ、今はね。
「これを使え」
「え」
そう言って投げ渡したのは、掛布団だった。
手触りも俺が使っているものより優しめで、尚且つ温かみがある。
「――夜は寒い、温かくしろ」
狼男さんからの初めての親切。
衝撃のあまり、暫く俺は突っ立っていた。
そして、この日を境に俺の生活は変化を迎えることとなる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます