第九話 愉悦
あれから一週間程経った。
今日は一日の流れをざっと整理しようと思う。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「………起きるか」
日が出る前にすぱっと起床。
頭をぐるっと回すと目いっぱいの巨体が見える。
「おはようございます」
「……おはよう」
彼はこの集落一番の腕っぷし。
いつも頭のおかしいフリをしていると言っていたが、俺からすると素の状態もあんまり変わらない。だって言動がおかしいんだから、大差ない。
「イクゾ」
「はい」
手短に見える服とナイフとバックサックを手に取り、昨日の夜リーベに仕込んでもらった木札を手に取って外に出る。
薄い土壁の部屋を出ると同じような造りの家がいくつも見える。あるモノは地下に穴を掘り穴暮らし、あるモノは集合住宅のようなツリーハウスに居住う。
「おはよう」
「おはようございますー」
横を通り過ぎた隣人と挨拶を交わす。彼の背丈は自分の二倍よりやや高く、豚の頭にイノシシの牙を生やしている。最近牙を手入れしたかなんかでご機嫌だ。
「おはようー」
「おはよう!今日もしごかれるのか、大変だなぁ!」
「おはようございます。頑張ってください」
「おはよー」
「おはようございます、頑張りますー」
皆見た目は違うし、二足歩行もいれば四足歩行も八足歩行もいる。大きさも、速さも、得意不得意も違うけど——皆はお互いを家族と言い合っている。
「サッサトイクゾ」
「はい」
今からするのは巡回だ。
この集落は歪な迷路の一角に細々と存在しているとは言えど、誰が迷い込み言いふらすかも分からない。家族の誰かが傷つく可能性もある、それは避けなければならない。
「今日はペースを上げていくぞ、ついてこい」
「はいぃ……」
背中に背負いんだ、籠の中には大量の楔が入っている。
これを各地点に打ち込まれたものと交換するのが昼前までの仕事だ。
「遅いぞ」
狼男さんは人間である俺を気遣ってペースを落としてくれてはいるが、ほぼ常に全力疾走でないと追いつけない速度だ。体のつくりが違うのに、無茶すぎる。
「打ち込むぞ」
狼男さんが持っていたハンマーを手渡される。
リズムよく、確実に楔を奥まで捻じ込んでいく。
だいたい楔に付けられた印が見えなくなった辺りが目安。
「繧上l繧峨r縺セ繧ゅk縺励e縺斐→縺ェ繧」
そしたら狼男さんが謎の呪文を唱える。
相も変わらず何言っているのか、さっぱり分からない。
「――次いくぞ、遅れるな」
「はい」
これを後15か所。
指定の場所に刺して、同じように呪文をかけていく。
時折、地面が硬く上手く刺さらないことがある、この作業の面倒なところだ。
「静かにしろ」
ある程度進んだところで、突然狼男さんが止まる。
勢いでぶつかりかけたが、ギリギリで止まれた。
「ちょっ、危ないですよ」
「静かにしろ」
そう言いながら僕の首の付け根辺りを掴み、大きく、だけども静かに飛び上がる。
木々の枝葉に捕まり、指で口を覆うハンドサインをした。
「少し染みるが、我慢しろ」
そう言って狼男さんは後ろに背負っていたバックパックから土の容器を取りだし、ぐしゃりと握りつぶす。中身に入っていた緑色の液体が降り注ぎ、体を染めていく。
――しばらくして下から物音が聞こえた。
「あ、あれは」
羊のような角に、肉食獣のような体躯と牙と爪。
尻尾は稲穂のように垂れ下がった魔物が群れを成している。
彼らは戦闘にいるボスのような一際大きい魔物を筆頭に、列をなして逐一周囲を警戒して歩いているように見えた。
「……」
ボス魔物の動きが止まる。
何かを警戒するかのように、八の字で辺りをさまよう。
「面倒だな」
そう狼男さんが呟き、そして
「許せ」
そう一言、背中から土の容器をまたもや取り出す。
そして今度は、そのまま下に投げた。
陶器が地面に当たり、砕け、飛散する。
「ギャ”ッ””!!ギャ”ッ”」
そうボス魔物が、何か恐ろしいものを見たかのような表情をしながら叫ぶ。
それは伝播し、魔物達は叫び、狂いながら逃げ出していった。
そして何事もなかったかのように
辺りに静寂が訪れるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます