第八話    鼾唾

「ぜんぶもった?」



「うん、行こう」



 慣れした親しんだ我が家には、一切明かりが灯っていない。

 既にどの民家も光はなく音もない、そんな時間帯だ。



「また来るから」



 —―俺が水を汲むための条件



 外れでリーベとその家族達と衣食住を共にすること。

 空が赤くなり、日が落ちるまでの時間に水を届け、届けたら誰にも会わず速やかに外れへ戻ること。

 それ以外の時間に外れより外側に行かないこと。



 置手紙は残していいと言っていたので、一通だけ食卓に置いておいた。

 名残惜しさに思わず天井を眺めてしまうが、踏みとどまって前を向く。



「いこうリーベ」



「うん」



 リーベが言うには、木々にはそれぞれ性格があって、それを目印にして目的地まで進むのだという。訳が分からない、何を言っているんだリーベは。



「キタカ」



 お出迎えは狼男さんだ。相も変わらずの敵意を感じる。

 横目でリーベを見ると、荷物をふわふわと浮かせ回して遊んでいた。



「オマエノスミカハ、ココダ」



 雨風を凌げる最低限の屋根と壁に、葉と毛皮で作られた巨大なベッド。

 何とかして作ったようなハリボテの椅子と机があった。



「オマエハコッチダ」



「え」



 その隣を指刺される、覗くとそこには布団があった。

 毛皮を敷いただけの敷き布団?と大量の葉でできた掛布団。



「オマエハ、オレトイッショダ。ヨカッタナ」



 邪悪な笑顔だった、これわざとだな。



「ありがとうございます、よろしくおねがいします」



 とにかく、喰われないように気を付けないとな



「夜遅いからもう寝ますよ、おやすみなさい」



 ひょっこりと顔を出した蛇女さんがそう言う。

 途端に緊張が解けて、筋肉が弛緩し脱力感に襲われる。



 眠気に身を任せながら、俺は毛皮の上で意識を落とす



 


 こともなかった。



「う、うるさすぎる」



 狼男さんのいびきがうるさすぎる。眠気を吹き飛ばすような不規則で不安定ないびきが止めどなく部屋に充満し、眼をガン開きにさせるのだ。

 何回叩き起こそうかと悩んだことか、意気地なさすぎて出来ないけども。



「エニ、こっちきて」



 寝れない俺のもとにやってきたのは、リーベだった。



「どうしたのリーベ」



「ねれないとき、これ」



 手渡されたのは耳当てだった。


 内側に詰め物があり、両耳にガッチリと嵌って音を遮断する。

 リーベが何かを喋っているようだが、全然聞こえなかった。



「なんて言った?」



「ないしょ」



「そっか」



「おやすみ」



「おやすみリーベ」



 リーベのくれた耳当ては驚くほどの快眠性があった。

 遮音性もさることながら、安心感が違った。





「良かったな」



「え」



 気づいたら、狼男さんがこちらの方を向いて寝そべっていた。

 いつの間にと思ったが、そういえばいびきが聞こえなくなっていた。



 そして何よりも——口調が違う。



「いつもの口調はわざとですか?」



「脳の無い狂獣と思わせるためだ、高を括って攻めてくる敵を葬るにはこれが丁度いい」



「そうですか……難しいことを」



「俺はこの集落で一番強い、だから家族を守る責任がある。家族からどう思われていようが俺は家族を守るために、嘘をつく」



「そうですか、じゃあ質問を変えます。さっきまでのいびきは嘘寝ですか?」



「嘘じゃない悪いとも思っていない、だが俺はいつも半分起きている。常に脳を半分覚醒させることで侵入者への迎撃を行うことができる」



「そんなことが」



 可能なのか?ではないやっているのだ。

 理屈等は抜きにして納得する。


 いびきは納得していないけどね。

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