第四話 ︎︎   君のせい

 一言で言うなら、たちの悪い迷路。



 同じ景色だが微妙に違う、方向感覚を失うような入り組んだ地形は意思をもって俺という部外者を弾こうとしているようにも見える。彼女の走力が俺よりも劣っているからギリギリついていけているだけ、しかも全力だというのに。



「はぁ…はぁ」



 時折、来ていた服の裾を小さく千切って捨ててはいるが、もう正直ここがどこなのかわからない。あの少女も同じだというのに、どうして進むのか。



「こないで!」



 ――彼女がそう言った途端、ツタがゆらりと浮かび上がったのが見えた。



「ちょっ!ちょっと待って」



 ツタが鞭のように振り回され、思わず足を止めてしまう。無理やり突破することはできるが、痛い手打ちになるのは目に見えている。



「だけど」



 ここを抜けないと、彼女はもっと遠くへ行ってしまう。早く引き止めないと、次いつ魔物が襲ってくるか分からないというのに。でもこれ以上進んで家に帰れる保証は全くない、ここで引き返すのが無難だ、彼女の意思を尊重する意味でもこれは択として悪くない。



 ――だが今回は少し勇気をもらうことにする。



 懐から取り出す、掌に収まる大きさの小瓶。

 瓶といっても壺と同じ陶器だが、小瓶は小瓶だ。



 先端を持ち上げて栓を勢いよく引き抜く。

 きゅぽんと音が鳴り、それを飲み干した。



 「なに?」



 中身は水、だがただの水じゃない。あの井戸から取った、携帯用の不思議な水キュリオス

 だがこれでいい。この量が一番、丁度いいのだ。

 




 立ち止まる俺に対して撓るツタが襲いかかる。

 直撃するかに見えた、が当たるはずがない。


 既に身体の制御は効いていないからだ。



「!?」



 ツタは恐ろしいほどの速度で引きちぎられ、ぼとぼとと地に落ちる。その感、彼女は呆気に取られていたが、調子を取り返すように傍にあった岩をぶつけてくる。



 だが、それを簡単に躱したかと思えば一瞬の内に肉薄する。

 焦った少女は地面を陥没させた、簡易的な落とし穴だ。



 落下するような感覚とともに上から大量の土が降り注がれるのが見えた。生き埋めにしてしまうつもりなのだろう。だが少しだけ遅い。



「……なんで」



 落とし穴の壁を蹴り上がり、あっという間に地上に出る。

 もう彼女は目と鼻の先にいる、チェックメイトだ。



「ふぅ……ようやく動かせるようになってきた」



 『乱魔体質』


 魔力を制御することができず、魔力に触れると体の自由が利かなくなる。



 乱魔体質を持つほとんどの人は腕が重くなったり手先が不器用になるくらいの症状が多いが、俺の場合は体の意思ごと刈り飛ばされる。

 しかも凶暴性が高く、今回のように暴走する時間を小瓶等で把握できるならまだしも、それ以外で真面に働いたことなど一度たりともない。



 今回はだいぶ、上手くいったほうだ。



「乱暴なことしてごめん、でもここは危ないから早く――」



「ちかづかないでっ!!!」


 

 またも彼女はパニックになり、魔法を発動させる。

 彼女の近くに寄れば、魔法は使えないと思い、更に迫る。



「だから!ちかづかないで!!!」



「は!?」



 彼女はあろうことが自分諸共、魔法で狙っていた。

 パニックによるミスだろう、勢いよく岩が向かってくるのが見えた。



 このままだと彼女に直撃する。



「えっ……」



「大丈夫だからっ!」



 彼女を押しのけて、岩を受け止める。

 あまりの重さに面を食らうが、どうにか軌道はずらせた。



「あ”っ”……」



 ゴッっと後頭部に固い何かが当たったのがわかる。

 意識が薄れていく、マズイとわかっていても抗えない。



 元はといえば君のせいだろうに。

 俺も十分怖い思いさせたけど。



「な……にそ……め」



 俺はゆっくりと意識を手放した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る