領主ゲーム

くすだま琴@コミカライズ「魔導細工師ノー

1章 国外追放を賭けたゲーム 第一王子 vs 公爵令嬢

第1話 決闘の手袋は投げられた


「ようやくこの時が来た! グランローズ、いや【孤高の夜薔薇】! おまえとの婚約を破棄する! 今までの悪事も許さないからな。罪を償え。さぁ、決闘を受けろ!」


 そこは煌びやかなパーティ会場だった。

 その日、ダイスニア国立シェール学園で開花祝祭会が行われた。

 春先に行われるこの会は、春に蕾から花びらを開く花にちなんで、16歳となり成人となった者たちを祝うのである。

 この会を経て、晴れて成人と認められる。


 今行われているのは、その祝祭後の成人たちの披露目のパーティだった。

 今年はダイスタニア王国の第一王子もその中にいたため、特に参加者も多く賑わっている。


 その第一王子レオンスと、従妹いとこであり婚約者でもある公爵令嬢グランローズによって、これから開会のダンスが始まらんとするところだったのだが————婚約者に近づいたレオンスは、冒頭のセリフとともに白い手袋を投げつけたのである。


「本人が契約破棄できるのも決闘を申し込めるのも、成人となってからだからな。この日を俺はどれだけ待ったか」


 ご丁寧にも周りには契約時結界が張られ、契約の場を邪魔する者を拒む。

 頭上には婚約の魔法証書マジックスクロールが開かれ、ゆらりと浮かび契約の破棄を待っていた。


 対峙していたグランローズは、自分に向かって放たれた手袋を、手にしていた扇子でとっさに叩き落とした。


 レオンスがさらなる怒りをその青葉色の瞳に込めた。震える銀の髪が、冷ややかな炎のように揺れる。

 まさか手袋を扇子で叩き落とされるとは思わなかったのだ。

 動揺して無様な姿でその身に受ければよかったのにと歯噛みする。


 手袋を叩き落とした公爵令嬢グランローズの表情は変わらなかったが、深い薔薇色の瞳の温度は下がった。

 そして扇子を振った時に乱れた長い夜空色の髪を優雅にうしろへ払った。



「……レオンス。あなた、何を言ってるのかしら」


「とぼける気か! 俺が愛する者に対しての嫌がらせの数々、許しがたい! 罪を償え!」


「証拠、証言を出しなさいとこれまで何度も言っているわよね? 用意できたのかしら?」


「証拠も証言もおまえが握り潰しているだろう! 俺の愛するマリーにまで脅しをかけ……! ああ、なんてかわいそうなマリー。だが俺がこの悪女を断罪して君を婚約者として迎えるよ!」


 レオンスが視線を向けた先には、花のような薄紅色の髪をした小柄な少女がいた。

 胸の前で祈るように手を組み、震えながらレオンスを見ている。


「レオンス様……! いいえ、グランローズ様は悪くないのです! レオンス様のおそばにいるわたしが悪いんです!」


「ここまできても君はあの悪女をかばうのか! 心根が優しすぎる。君以外に俺の妃になれるものはいない!」


 パーティ会場にいた国王一家と公爵一家は呆然とした。

 騒ぎを止めようにも、契約結界が張りめぐらされ止めることもできない。

 他の参加者たちは、驚きつつも余興を楽しむかのように見ている。


 なんの見せ物を見せられているのかしらという顔で、グランローズは扇子をパチリと鳴らした。


「——浮気をこんなに堂々と言う愚か者いるかしら。最低の愚か者ね」


「浮気ではない! 真実の愛だ!」


「出たわ。真実の愛。ねぇ、わたくしの愚かな従兄いとこ、婚約などの契約者がいながら他の者と愛し合う愚かな行為を浮気と呼ぶのよ? 愚かな者たちは愚かだから知らないかもしれないけど?」


「お、愚かだと?! ふざけるなっ!!」


「あら、では無能という言葉もつけてあげるわ? あなたたちは浮気という不誠実な行為をした愚か者のうえに、証拠も証言も用意できない無能だもの」


 つり気味の目を細めて嘲笑を浮かべるグランローズに、レオンスと浮気相手のマリーは顔を真っ赤にした。

 いつの間にか、緑髪のメガネの学生と赤髪のたくましい体の学生が、レオンスとマリーの横を固めていた。

 そのうちの片方、秀才と名高い緑髪の侯爵令息が指を突きつけた。


「殿下に愚か者の愚かな行為など愚かを連呼するなど不敬だぞ! この悪女が!」


「不敬なのはどちらかしら。わたくしは王の姪。王族よ。わかっていてその指を出しているの? 訴えるなら証拠がいると当たり前のことを言っているのよ? 証拠も証言出てこないわよね?」


(————わたくしは何もしていないのだから)


 そう続けようとして、グランローズは口を閉じた。

 今までに何度同じことを言っただろうか。ずっとやっていないと言ってきた。それでも糾弾する言葉が投げ続けられた。


 何を根拠にグランローズが嫌がらせやいじめをしたと言っているのか。

 証拠を出すように言っても「言い逃れするのか」や「ごまかすな」など、実のないことをわめくのみ。


 ようするに、グランローズがやったのだと思いたいから、それ以外の言葉を聞かないのだ。

 それ以外の事実は彼らの中に存在することはない。本当にやったかやってないかはどうでもいいことなのだ。

 そう気づいたら、もうこのままこの愚かな従兄のお守りをすることが、ほとほと嫌になって「愚か」と口から出てしまった。


 普段のグランローズはもっとしとやかで、こんなことを言ったりしないのだが、先日見た舞台が悪かった。

 悪役令嬢と呼ばれる役が、真実の愛をみつけたと言う浮気者の婚約者に鉄槌を下す、勧善懲悪アクション歌劇だったのだ。

 

 グランローズはレオンスを好きだというわけではなかったが、従兄いとこだし小さい頃から側にいた。だから将来助けてあげてもいいと思っていた。そのための勉強もがんばってきた。


(結果が、コレよ)


 グランローズの下げた目線の先に、落ちてくたりとなった白い手袋が映る。

 これを拾えば『決闘』を受けたことになる。


「さぁ、早くその手袋を拾え! 婚約破棄と断罪を賭けた決闘を受けるんだ!」


(――本来なら、名誉をけがされた者が決闘を申し込むのよ。こんな場で侮辱された私の方が、手袋を投げるべきだったわ)


「その決闘、受けられないわ。婚約破棄を賭けたりはしない」


 一瞬怒りの形相を見せてから、嘲るようにレオンスは片頬を上げた。


「ははっ! さすがの悪女もおじけづいたか! ひざまづいて許しを乞うなら許してやらないこともないぞ」


 グランローズはスカートの裾をほんの少し摘んだ。

 わざわざ靴が見えるようにしてから、その細いヒールで手袋を踏みつける。

 そして自分のレースの手袋をするりと脱ぐと、レオンスの燕尾服の胸元へ投げつけた。






*続きは明日の19:50更新

 以降19:50毎日更新 第一章 全8話です!





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