第8話

 柊太の代わりに僕が戦場に行くべきだった。

 死ぬなら、柊太じゃなくて僕であるべきだ。

 そういう意味のことを言われた気がしたのだ。

 彼女がそう意図して言ったのかどうか、本当のところは分からない。

 ただ、僕に限らず、彼女の柊太を想う気持ちを知る者ならば誰でも、そういう真意を読み取ることができたのではないだろうか。


 現実の残酷さにふとこぼれそうになった涙を彼女に見せまいとして、僕はなおさら顔を上げようとしなかった。


 それで僕もまた入隊希望を出し、両親の心配をよそに徴兵検査を受けることになった。

 結果、入隊許可は取れたが、目が悪かったせいか、あるいは身体が小さかったせいかもしれない。

 僕は、最前線から離れた通信部に回された。


 それからなおも海岸部を中心とした戦闘が続いていたが、やがて重い腰を上げたNATO軍の参戦で我が国は領土奪還を果たし、年明けには終結となった。

 が、戦友らに誘われるまま除隊したその足で僕は首都近郊へ向かい、そこで紹介された仕事に就き、故郷には帰らなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る