第31話 明かした事実
「船見君、さっきのセリフ。アレはいったいどういうことなの?」
俺の前を歩いていた沙羅が、こっちへ振り返ってきながら問いかけてくる。
二人きり。
花館と別れて少し歩いたタイミングでだ。
「……アレってどれだ? 抽象的な問いかけには答えられないな」
しょうもない屁理屈なのは知ってる。
でも、つい俺はそんなことを口走っていた。
「花館君にさっき言ってたことだよ。転生しなくても、ってどういうこと?」
まあ、当然こうなる。
それも込みで発言したわけだから、わかっていたと言えばわかっていたが。
「……簡単だよ。俺が転生者だってことだ」
「今の流れ、そういう冗談は特に求めてないんだけど?」
「そんなこと言われてもだろ。本当なんだから、嘘もクソもない」
口にしたのはどうしようもない暴露。
でも、あからさまに非現実的過ぎて信じてもらえなかった。
それもそうか。
転生ごとなんて、あるのはラノベの中か、どうしようもない妄想の中だけだ。
所詮空想上の出来事でしかない。
……ただ、それでも、だった。
「……船見君、私が本気なの、あなたはわかってくれないのかな?」
俺の手に触れ、真剣な表情で上目遣いしてくる沙羅。
いつも通り軽く冗談めかして返そうとするも、そうもいかない。
そんなことをしてしまえば、彼女の怒りを買ってしまいそうだし、雰囲気からしてもそれはできなかった。
「……残念ながらそれ以外の回答は、軒並みお前の嫌いな嘘ってやつになる。気軽にものを言えない」
「あくまで私をからかう気なんだ。本気なのに、船見君ってそんな人だったっけ?」
信じてもらえない。
どうしたらいいか、と真剣に悩んでしまう。
悩んでいるうちに、ポケットに手を突っ込んでハッとした。
手に伝わる異物感と、
沙羅は深々とため息をつきながら、俺の腕をつねってきた。
普通に痛い。
「今、少し成原に信じてもらえる証明の仕方を考えてる。俺が転生者だってこと、この世界に来て誰かに教えるのは初めてだから」
「まあ、そうだろうね。如月さんにはそんなテキトーな嘘つかないだろうし」
首を横に振った。
そういう意味で教えていないのではない、と。
「違うよ。琴璃ちゃんに言えてないのは、タイミングが合わなかったってだけに過ぎない」
「そんなからかい言葉にタイミングなんて関係ある?」
「あるよ。からかい言葉でもなんでもない、真剣なことだから」
本当なら、このことは一番に琴璃ちゃんへ伝えたかった。
転生してまでも、俺は君を守りたかった。
守りに来たのだ、と。
一つ一つ丁寧に教えてあげたかった。
でも、それは叶わない。
花館と対峙して、つい俺は本当のことを口走ってしまったから。
沙羅を誤魔化し、このタイミングで嘘を教える、なんていうのも面倒だ。
もう、ちゃんと話すことにした。
今、俺がこの世界、コネメモの中にいることを。
「成原、そもそも今俺たちの生きてるこの世界は、ゲームの中なんだ」
「……船見君」
怒気を孕んだ沙羅の声。
わかっている。
俺は続けた。
「もちろん、その証明もできる。これ、見てくれ」
言って、ズボンのポケットから簡単な紙切れを取り出す。
それは、コネメモの登場人物紹介をしているエロゲ雑誌の雑な切り取り。
転生した時、たまたま手に持っていたそれは、俺の名前が船見匡人になっても無くならずにいて。
いつか俺の素性を明かしてもいい時の証明として、大切に取っておいた。
確かな説明として持ち続けていたそれのことを、俺は今になってまた思い出した。
色々あり過ぎて、このことを忘れてしまっていたのが笑える話だ。いや、笑ってる場合ではなくて、何をしているんだ、というところか。
大切なことだったのに。
「……何? それは……?」
怪訝な表情を作り、俺の差し出す紙切れを見つめる沙羅。
道端のど真ん中で立ち止まり、後ろから通って行く人のために俺は彼女の肩に触れて道を空けさせる。
壁際に二人して寄り、必然的に近くなった体と体を少しばかり離しながら、けれども俺は沙羅へ紙切れの内容を見せてあげた。
「……これ……書かれてるの……私? 私の説明がされてる……?」
「成原の説明がされてる。これは、コネクトメモリアル、つまりこの世界の説明もされてるんだ」
動揺と困惑と、それから警戒。
彼女の瞳に、俺は異物として映り込んでいる。
「……どういうこと? 美海果と雨の説明もある……恭介も……」
「そりゃそうだ。お前らはこのゲームの主要人物なんだから」
異常過ぎる状態。
エロゲのキャラクターに、エロゲ雑誌の切り取りを見せている。
こういうことになるのは予想していたけど、いざこうなると明らかに変な感覚だった。
「困惑するのはわかる。俺だって、もしも成原たちの立場だったら、こいつ何言ってんだ、って思うだろうからな」
「……これが本当なら……困惑どころの話じゃないんだけど……? つ、作り物とかじゃないんだよね……?」
「違うよ。まごうことなく本物の雑誌資料。俺たちの世界で発行されたものだ」
「……俺たちの……世界……」
呟く成原に対し、俺は心の中で返した。
それでも、今の俺はコネメモ内にいるモブキャラだけどな、と。
「……ねえ、船見君?」
「なんだ、成原?」
改まったように俺の名前を呼んでくる沙羅。
彼女は、雑誌の切り取りから視線を上げ、俺のことをジッと見つめながら切り出してきた。
「これが本当なら……君は何者なの?」
「……俺は……」
「転生者? でも、転生者ってことは、その前に何かとして生きてたってことでしょ?」
そういうことになる。
頷いて返すと、成原は間髪入れずに続けてくる。
「君は、なんていう存在で、どんな世界にいたの?」
奇異の視線。
沙羅からぶつけられる質問に、俺は嘘や冗談を交えることなく返すのだった。
「プレイヤーだよ。コネクトメモリアル。今俺たちがいる世界を見守る、傍観者的存在だった」
と。
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