座敷わらしは鄙な棲み処に落ち着きたい
oxygendes
第1話 山間の里 二十年前
夏の強い日射しの下、虫取り網を持った少年が山沿いの小道を進んでいた。年の頃は七、八歳ぐらい。きょろきょろと左右を見回していた顔が一点を見据えて止まる。獲物を見つけたのだ。紫の
少年はそっと歩み寄り、薙ぎ払うように網をふるう。だが、揚羽蝶はふわりと網をかわし、道端に広がる草むらの上をひらひらと飛び去って行った。紫で縁取りされた翅の黄色や青の模様が煌めく。少年は蝶の後を追う。右へ左に身を翻しながら蝶は木々の間から振り注ぐ日射しの中を飛んで、山の奥の方に向かって行った。いくつもの分かれ道を過ぎ、少年が不安げに来た道にちらりと目をやった時、蝶が飛び去って行く先に
少年は敷地の入り口で立ち止まり、屋敷の様子を窺がう。屋根は雨に濡れたように
少年は前庭に入って行った。忍び足で芥子の花に近づき網をふるう。手首を回して折り返した網の中で蝶はふるふると翅を震わせていた。網に手を入れ、翅を重ねて親指と中指で挟む。網越しに見える翅の模様はこれまで見たことのないものだった。少年の口元に笑みが浮かぶ。その時、
「お願い」
背後からの声に振り向くと、すぐ後ろに少女が立っていた。おかっぱ頭に藍の着物、年頃は少年と同じくらいに見えた。少女は少年の目を真っ直ぐに見つめる。
「その蝶を放してあげて」
凛とした顔つきに少年は言葉を失った。そして……
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