第4話

 冒険者になって、最も凄惨な光景の一つとして挙げられるのが、これだ。これを見たくない冒険者が多いことで、ゴブリンの討伐は報酬が高く設定される。


「大丈夫?」


 私は二人に尋ねる。まあ普通に考えて、大丈夫なはずはない。二人は目を逸らし、鼻をつまむ。冒険者として、本来やってはいけない行為だが、今は彼女らを責める気にはならない。



 気力が削がれ切った二人を尻目に、私は無残に散らばる死体の一つ一つを確認する。何匹ものゴブリンが、何度も愉しんだのが窺える。



 ここには十数個の玩具が転がっている。ずっと冒険者をしていると、生物の筋肉の構造などが分かるようになってくる。人間も例外ではなく、体つきでその人の職業が分かったりする。



 ここにある死体の多くは農民や商人などのいわゆる堅気の女の子だ。だが、それに混じって冒険者のものとみられる死体が三つある。



 一つ目は分かりやすい。戦士職と思われる人の足だ。褐色で大腿四頭筋、ハムストリングス、ふくらはぎの筋肉がきれいに発達している。腐りかけてはいるが、彼女の鍛錬の形跡は命を奪われても残っている。



 二つ目が魔法使いのものだ。恐らく攻撃魔法を得意とする赤魔術師だろう。攻撃を担当するだけあって、魔術師でありながら身体能力が求められる。強い攻撃魔法を使うのなら、それに応じた反動が来るし、常に敵の弱点を狙えるように戦闘中は移動しなければならない。


 だが被弾をすることは少ないため、戦士職のそれと比べ、綺麗な肌をしている。魔術師と判断したのはこういう理由だ。



 三つめのこれは、回復魔法が得意な白魔術師だろう。大抵が聖職者で、パーティーにおいては後衛で回復を始めとしたサポートを得意とするジョブだ。動きは少ないため、細いシルクのような足をしている。そしてこの死体に最も嫌なにおいがこびりついている。ゴブリンもまた色白の華奢な子が好きなのだろう。



 この三つの死体は、腐敗の具合からみて恐らく同じパーティーだったのだろう。そして皆捕まり、同じように辱めを受けたということだ。仲が良かったのだろう、皆足首に同じミサンガを付けている。最近流行っている、冒険者の安全祈願のお守りのようなものだ。




「こんなこと、どうして」

 ユウが呟く。


「奴らにとっての娯楽であり、憧れよ」



 ゴブリンは知能の低い、乱暴者というイメージが先行しているが、実際はかなり社会的な生物である。食事はシャーマンやロードなどの上級ゴブリンが最優先、次に子供。大人の下級のゴブリンは食糧にありつけないことだってある。



 そしてこの序列は、捕縛した人間に対しても適用される。



 ゴブリンは他のメスの種族であれば、お構いなしに生殖行動を行う。他の人型のモンスターはもちろんのこと、家畜の牛からゴブリンが生まれることだってある。ゴブリンにメスはおらず、一律オスとなっている。とにかく多くの種を残す、それに特化したモンスターなのだ。




 しかしながら、奴らは人間に対してだけ異常な執着を見せる。人間を捕縛すれば、ゴブリンはその群れのリーダーに渡すらしい。研究者の推測に過ぎないが。


 その証拠として、家畜と交わるゴブリンは散見されるが、巣穴の外で女性が襲われたという報告が今のところない。



 上位のゴブリンによって捕縛された女性たちは、ゴブリンを生むための装置と化す。故障すれば、装置はただの肉となり、ゴブリンにとっての食料となる。


 しかし、人間に対して異常な執着を持つのは下級のゴブリンも同じである。人間とまぐわうことへの憧れか、奴らは栄養のある臓器を有する上半身だけを食べ、残った部分はただの___。



 考えたくもないが、血にまじって吐き気を催す匂いが奴らの行った行為を証明している。





「行くわよ」


 私は先導し、洞窟のより奥へと向かう。ここにいても精神が削られるだけだ。ユウとフォリアは死体に手を合わせ、私の後に続く。その目には恨みがあった。



 正義を掲げてゴブリンを倒そうとする彼女たちが羨ましかった。仲間の屍を超えて生き残った私には、もう正義なんてない。



 二人の正義を守らねば。私は誓い、暗闇を進んでいく。


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