第2話

「右があたし!左がフォリアね!」


「いや、二人で協力した方が___」



「何言ってんのよ。二人で一匹ずつ倒した方が早いじゃない!行くわよ」

 そう言うとユウは駆けだす。



「もう」

 フォリアはユウの後を追って飛び出していく。


 ユウは持ち前の腕力で大剣をゴブリンに一振り。敵は真っ二つになった。対してフォリアは軽いフットワークで揺さぶりをかけ、敵が棍棒を大ぶりするのを待ち、出来た隙をついて急所に軽い一太刀。首を切り落とした。



 師匠からみてもいい動きだった。二人の連携こそ取れていないものの、技術はピカイチだ。


「二人ともよくやったわ」

 私は二人の頭を撫でる。


「こんなのやつら余裕ですよ」


「頑張りました!」





「でも、次からは二人ともちゃんと連携を取ること。いいわね?」


 洞窟内は複数体を相手取るため、連携が重要だ。



「だってよ。ユウ。勝手に突っ走らないでよね」


「フォリアが付いてくるのが遅いんだよ」



 二人はにらみ合う。


「こら、けんかしない。ユウはちゃんとフォリアに確認をして、フォリアは頭で考えすぎないでユウに合わせなさい」



『はい』


  そうは言うものの、二人の連携は正直心配していない。無茶をしがちなユウも一人じゃどうにもならない時にはフォリアを頼るし、フォリアもユウの動きはよく見ているし信頼も感じられる。むしろこの二人の武器はそれぞれの強さよりも、その阿吽の呼吸なのだ。





「それじゃ、行くわよ」


 松明に火を点け、洞窟を進んでいく。ユウとフォリアは肩が触れる距離に身を寄せ合って私の前を進む。かわいいな。やはり怖いのだろう。それでいい。敵に恐怖しなくなった冒険者の寿命は長くない。



 私を助けてくれたあのパーティーメンバーたちは怖くなかったのだろうか。私は敗北が確定したとき、怖くてどうしようもなかった。だから無様に逃げ帰ってきたわけだが、他のみんなは逃げる私をどう思っていたのだろう。腰抜けか、裏切り者。その辺だろうな。




「師匠」


 ユウとフォリアは剣を抜く。前方にゴブリンが数匹。フォリアが少し前に出て、ユウがその斜め後ろに陣取っている。


 やはり、二人の連携は完璧だな___。フォリアが敵を揺さぶり、ユウが大剣で一網打尽にする。言葉を交わしたのかは分からないが、狭い洞窟でお互いの長所を生かすための最善の方法を取った。見事なものだ。


 だが___




「目の前の敵に気を取られすぎちゃだめよ」


 そう言うと、二人は私の方を振り向き、ぎょっとする。そう、私の後ろにも十数匹のゴブリンがいる。囲まれたという訳だ。



「申し訳ありません。師匠」


 フォリアが反省を述べる。


「おい!謝るのは後だ!何とかしないと!」


 ユウがフォリアを叱責する。そうだフォリア。今すべきことは、この状況をどう打破することかを考えることだ。



「師匠、手伝っていただけませんか?」

 フォリアが言う。


「私からもお願いします。師匠!」

 ユウが追随する。



 驚いた。二人で何とかしようとする方法を考えるかと思ったが、意外にもあっさりと助けを求めた。そんな二人を見て気づいた。この子たちは相棒が怪我しないために助けを求めているのだと。



 師匠の私と稽古をつける際に、彼女らは絶対手加減をしない。勝てると思って打ち負かそうとしてくる。ユウもともかくフォリアもその傾向がある。なんだかんだで、自分の力を信じているのだ。そんな二人が自分の相方のために自分の力ではなく他者の力を頼る__。


 私は昔のことが思い出された。昔の仲間と__そっくりだ。



「ま、いい勉強になったわね」


 私は剣を抜き、後方のゴブリンを相手取る。



「こっちはやっておくから、二人はそっちね」


『はい!』




 目の前のゴブリンにレイピアを向ける。相変わらず醜く、いやらしい目でこちらを見てくる。だが、平常心は保たれている。


 私は後ろ足で地面を強く蹴り、的確に敵の急所を突いていった。


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