第11話 私が恋に落ちた日・中編 ~未来side~

 渋谷で声を掛けてきたチャラ男に何処かに連れてかれそうになってた時、クラスメイトで隣の席の葵がチャラ男から私を守るように間に入って庇ってくれている。

 それでチャラ男が私に声を掛けてきた理由を葵が聞き出してくれたまでは良かったのだけど、そのことに怒りと悲しみから涙が止まらなくなり、葵の背中に泣き顔を隠すように押し付ける。

 その事とチャラ男の自己中心的で自分勝手な理由で女性……私を追い詰めたことが葵の逆鱗に触れたようで、怒気混じりの声でチャラ男に言う。


「……巫山戯てんじゃねぇぞテメェ!!

 アンタ基準で美少女だったら誰でも良かったってことだよな? それ。

 アンタにしつこく迫られた彼女がどれだけの恐怖を味わったと思ってんだよ!

 その彼女は今、泣いてんだぞ? テメェの自己中心的な行動のせいでな!!」


 そうチャラ男を怒鳴りつける葵に、不覚にもトキメキ始めてる自分がいることを自覚する。


「……………」


 葵の台詞に黙りを決め込むチャラ男。


「黙ってないで何とか言ったらどうなんだ?


 なぁ、彼女を泣かせて楽しいか?

 恐怖で震える彼女を見て楽しいか?

 彼女の心に深い傷を負わせて楽しいか?

 その彼女にアンタは何をしようとしてんだ?」


 そのチャラ男に葵はそう怒鳴る。


「……………」


 またしてもだんまりを決め込むチャラ男。


「お前……女性を何だと思ってんだ?

 彼女がこんなになるまで追い詰めて……テメェは何がしたかったんだ?


 一向に口を開こうとしないが……何で沈黙してんだよ!!

 黙るのはテメェじゃねぇだろうが!!

 なんとか言ったらどうなんだ?」


 徹底的に黙りを決め込むチャラ男に怒り心頭な葵君がそう怒鳴りつける。

 葵君が言った通り、私に一言でもいいから謝って欲しかった。

 だけどチャラ男は謝る素振りさえ見せなかった。

 それだけでこのチャラ男が日常的に女性を物扱いしてるのだと容易に察することが出来たし、女性とヤることだけしか考えていない最低なクソ野郎だということも……。


「……………」


 葵の怒鳴りつけるような数々の問にも無言を貫くチャラ男。

 こんな男が例え今更になって謝ってきたとしても、もう許す気は一切なかった。


「もう十分よ、君。

 だから今は……一刻も早くこの場から離れたいの。

 この男を1秒でも視界に入れたくないから……」


 そう口にした私に葵は「……分かった」と言い、私の手を優しく握ってこの場から離脱するように歩き始める。

 願いを聞いてくれた葵に私は心の中で「ありがとう」と感謝した。

 それと同時に私を窮地から救ってくれた葵を───私は1人の男性として好きになっていた。

 いや、愛おしいとさえ想っていた。

 ホントに私って単純でチョロい女だとも思ってしまった……。




 あの場から離脱してから暫く経ち──。

 私と葵は飲食店街にあるオシャレな喫茶店に入り、店員に案内された客席に並んで座っていた。

 より正確に言えば、私は葵の左腕に抱きつきながら座っている状態ね。


「……何で俺の隣に座ってるんだ?

 それに距離もやけに近い……と言うよりもほぼ密着してないか?」


 そう恥ずかしそうにしながら問い掛けてきた葵。

 ほぼ密着……ではなくて完全に私が”故意”に密着してるんだけどね。

 だってあんなにさり気なく窮地を救われちゃったらさぁ……好きになるに決まってるでしょ!

 むしろ好きにならない方が可笑しいわよ……。

 男嫌いな筈の私があっさりと恋に落ちるなんて、自分自身でも思ってもみなかったわ。

 だから私は葵に言う。


「この方が落ち着けるからだけど……ダメだったかしら?」


「いや、ダメってわけじゃ……」


 上目遣いに葵を見つめながらそう言った私に、目を逸らしながらそう答える葵。

 よく見れば葵の頬は真っ赤に染まっていたわ。


「さっきは助けてくれてありがとう、葵。

 葵が居なかったら私は今頃……」


 顔を赤らめる葵に私はお礼を言った。


「……当然のことをしただけだから、お礼は要らないよ。

 それよりも……何で男嫌いを公言している水無月さ…「未来って呼んで」…未来が俺の左腕に抱きついているの?」


 私が言ったお礼の言葉に対してそう返す葵。

 言っている途中で下の名前で呼んで欲しくて口を挟んじゃったけど。

 それと何故私が抱きついているのか?について答えようとして口を開いた私だったけど……。


「全ての男が大嫌いだって公言した私を……葵は自らの危険を顧みず窮地に陥っていた私を救ってくれたわ。

 正直言って自分でもチョロ過ぎだと思ったけど……私は葵のことを1人の男性として意識したと同時に好きにもなってしまったの!

 もう一生離したくないし離れたくないって想ってしまったのよ!


 だからね葵! わ、私と結婚を前提に恋人になって下さい!」


 気付けばそう葵に告白……もとい逆プロポーズを私はしてしまっていた。


「その言葉は冗談──」


「──冗談でこんなことを言うはずないでしょ!!」


 私の言葉を聞いてた葵がそう言い掛けてきた。

 だからそれに怒った私は葵の言いかけた言葉を遮った上でそう怒鳴ってしまったわ。


「疑ってしまってごめん!」


 私が怒鳴った理由を直ぐに察したのか、表情を暗くさせながら葵がそう真摯に謝ってくれたの。


「……私の方こそ怒鳴ってしまってごめんなさい!

 でもね葵……私は悲しかったわ。

 私の告白を、想いを、葵に全否定されたのかな?ってね……」


 思わず怒鳴ってしまったことを反省し、葵に謝った後に私はそう続けて言った。

 言ったことに嘘偽りはないし想いを否定されたみたいで悲しかったのも本当のことだったから…。


「………本当にごめん!」


 私の言葉を聞いてから更に表情を暗くさせた葵がそう一言だけ言った。

 その直後のことだった……。


「本気で好きになって告白してくれた未来に対して俺は……。

 こんな悲しい表情をさせるなんて……自分で自分を殴りたくなる。

 勇気を振り絞って告白してくれた未来の告白を、想いを……俺は自ら全否定してしまった。

 これで未来が帰ってしまったとしても……仕方がないよな……。

 今更になって後悔したところで……全てが遅すぎる。

 ほんと俺って……大バカでクソな野郎だよ」


 そう自分自身を責める葵から漏れ出た言葉を、私は聞いてしまった。

 怒鳴ってしまったことや好きな人に疑われて自分がどう思ったかについて葵に言ってしまったことを、私は今になって後悔する。


(葵のこんな暗い顔を、私は見たかったわけじゃない…。

 私のせいだ……私が余計なことを言わなければ…っ!)


 そんな後悔の感情が私の中で渦巻く。

 だから私は自分を責め続けてる葵に言う。


「……葵は大バカ野郎じゃないわよ。

 そんなに自分を追い込む必要なんてないわ。

 葵が後悔していることはその表情から十分に私に伝わったから!


 だから顔を上げて私を見てよ葵……。

 さっきのことで帰ったりなんてしないし離れることもないわ。

 そして葵を嫌いになることもない……一生涯ね」


 そう葵に私が今思ってる正直な気持ちを伝えた。

 自分が追い詰めたくせしてなんて虫が良すぎることを言ってるんだろうね…私って。

 こんな狡いことを言う女なんて嫌いになったとしても当たり前の話よね。

 だから私は何を言われても全て受け止める、と言う覚悟で葵の言葉を待った。


「……ありがとう」


 そう笑顔で私を見ながら葵がそう口にした。

 なので私は「どうしてお礼の言葉を?」と聞いたけれど、葵は答えてくれなかったわ。

 だからその後もそのお礼の言葉の意味が分からずにモヤモヤしたままの状態で、葵と雑談しながら過ごしたのでした───。



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