氷麗で有名な学年１の美少女を助けてから始まる甘ラブ生活！

第3話 窮地を救ったら告白されました

　久しぶりに昼食とショッピングをしようと渋谷へ向かった俺。

　ハチ公前広場に着いて早々、ハチ公銅像前で軟派男に絡まれている水無月さんに遭遇した。

　見て見ぬふりは出来ない、と思った時には２人の間に割り込んでいた。

「おい、俺の彼女に何か用か？」

　咄嗟にそう口にして水無月さんを背に庇いつつ正面から軟派男と対峙する俺。

　俺に邪魔されて明らかにイラつき始める軟派男。

　見た所、大学生くらいだろうか。

　顔はフツメン(あくまでも個人的な感想)だけど背は高く(１８０ｃｍ位？)、いかにもチャラそうな服を着ている。

「いきなり割り込んできたと思ったら俺の彼女だぁ？

　巫山戯てんのか陰キャ？」

(いきなり陰キャ呼ばわりかい……。

あんたから見れば邪魔してくる男は陰キャに見えるって解釈でいいのかな？)

　確かに俺は水無月さんの彼女ではなく、あくまでもクラスメイトの１人に過ぎないさ。

　だけどこんなにも体全体を震わせている水無月さんを見たら、割り込まずにはいられないでしょうが……。

　ましてや俺のブレザーを掴む水無月さんを見捨てる……なんてことは俺には出来ないんだよね。

　変に目立つのは嫌だけど、両親からは「困ってる女性は見て見ぬふりをせずに必ず助けること！」と散々に言い聞かせられて育ってきたから尚更、ね。

「いやいや、巫山戯てるのはどっちだよ。

　ここまで彼女を震わせておいてさぁ？」

　そう言ったら軟派男の顔に青筋が浮かび上がってくる。

「うるっせぇな！！

　俺に声を掛けられて照れてるだけに決まってんだろ！

　そんなことも分かんねぇのか？　このクソ陰キャ野郎がよぉ！！」

　おいおい……どこを見たら水無月さんが照れてるように見えんだよ？

　アンタが怖くて震えてんだろうが！

　マジ疲れるわ、こういう自己中脳内お花畑野郎。

「何処を見てそう言ってんだ？」

「俺が見てそう判断したからそう言っただけだ！」

　その言葉に俺は思わず吹き出してしまった。

「プッ…！」

「なに笑ってんだよ陰キャ！！」

「いやいや、目が見えてねぇんだな～って思ってな。

　眼科で視力検査してもらった方がいいぞ、うん」

　この発言が気に入らなかったようで軟派男は俺に向かって罵声を浴びせながら殴りかかってきた。

「もう許さねぇ！

　お前をボコボコにしてから連れてくわ。

　くたばれやクソ陰キャ野郎！」

(言葉で勝てないと判断して実力行使。

　安直過ぎて欠伸をしてしまいそうになるよ)

　なんて思いながら向かってきた拳を片手で軽々と受け止める。

　その際、バチンッと言う音が辺りに響いた。

「……はっ？

　何でこんな陰キャに俺の拳が簡単に…！」

　俺を拳１発で倒せると思っていたようで、受け止められたことに唖然としながらそう口にする軟派男。

「こう見えて俺、小さい時から護身術を叩き込まれているし今でも体を鍛えているんだよね。

　だから拳を片手で簡単に受け止めることなんて朝飯前なんだわ。

　見た目で判断すると痛い目に遭うよ、お･に･い･さ･ん？」

　軟派男にそう告げつつ殺気の籠った目で睨みつける俺。

　すると軟派男はその場に尻もちをついて「ひ、ひいぃぃっ…？！」とか言いながら徐々に後退りし始めた。

　どうやら俺に恐怖心を抱いたらしい。

　……つうか今更だけど、見た目陰キャじゃないからね？　俺。

　寧ろ傍から見てもガッチリとした体格をしてると思うが？

「はぁ……さっきまでの威勢は何処に消えたのさ。

　それはまぁいいとして……周りをよく見た方がいいんじゃない？　って俺は思うけどね」

　俺は軟派男にそう言う。

　俺達の周囲には沢山の野次馬が集まっていたからだ。

　水無月さんにしか目が向いていないせいで周りが見えていなかったようだしね。

「ナンパするのはアンタの自由だけど、時と場所を考えて行動した方がいいよ？

　それと明らかに未成年の女性だということを分かってて声を掛けたの？」

　そう俺が言ったことで慌てて周囲をキョロキョロとみ始める軟派男。

　そしてようやく自分がどんな状況に陥っているのかを理解したようで、顔を真っ青にさせながら俺が最後に聞いた問に答え始める。

「せ、制服姿で彼女が未成年だとは分かっていたんだ！

　だけどこんな美少女なんて中々お目にかかる機会は早々ない！

　だから俺は何としても彼女を手に入れたかったんだよ！

　だけど彼女はこの俺の誘いを拒否しやがったんだ！

　このイケメンの俺が何度も何度も誘っているにも関わらずに彼女は拒否し続けやがった！

　だから無理やりにでも俺の物にしようと思って彼女を連れてこうとし……」

　……未成年だと分かってた上で彼女に声を掛けたって？

　それを分かった上でナンパをしたって？

　彼女を物扱い？

　拒否されたから無理やり連れてくって？

　連れて行った後は何をする気だったんだい？

　もう聞くに絶えない……と思った時には激昂していた。

　俺の後ろで水無月のすすり泣く声が聞こえたから尚更だった。

「……巫山戯てんじゃねぇぞテメェ！！

　アンタ基準で美少女だったら誰でも良かったってことだよな？　それ。

　アンタにしつこく迫られた彼女がどれだけの恐怖を味わったと思ってんだよ！

　その彼女は今、泣いてんだぞ！　テメェの自己中心的な言動と行動のせいでな！！」

「……………」

「黙ってないで何とか言ったらどうなんだ？

　なぁ、彼女を泣かせて楽しいか？

　恐怖で震える彼女を見て楽しいか？

　彼女の心に深い傷を負わせて楽しいか？

　その彼女にアンタは何をしようとしてんだ？」

「……………」

「お前……女性を何だと思ってんだ？

　彼女がこんなになるまで追い詰めて……テメェは何がしたかったんだ？

　一向に口を開こうとしないが……何で沈黙してんだよ！！

　黙るのはテメェじゃねぇだろうが！！

　なんとか言ったらどうなんだ？」

「……………」

(水無月さんを苦しませるだけ苦しませやがって！

　これ以上に男嫌いが悪化したらどう責任とってくれんだよ……くそがっ！！)

　そう俺は思っていた時、クイックイッとブレザーが引っ張られる感触がした。

　それに気付いて後ろを振り返ると、泣き腫らした目で俺を見ながら呟く。

「もう十分よ、葵君。

　だから今は……一刻も早くこの場から離れたいの。

　この男を１秒でも私の視界に入れたくないから……」

　その切なる願いに「……分かった」と返答をした後、何も言わない軟派男を置き去りにする形で俺は水無月さんを伴ってこの場から足早に去る。

　尚、俺と未来が去った後にこの軟派男は野次馬の誰かからの通報により駆けつけた警察官によって連行されて行ったのだと、後に風の噂で知った。

◇◆◇◆◇

　ハチ公前広場を後にした俺と水無月さんは、オシャレなカフェを見つけたので一先ずその店内に入り、店員に案内された客席に座った……のだが。

「……何で水無月さんは俺の隣に座ってるんだ？

　それに距離もやけに近い……と言うよりもほぼ密着してないか？」

　俺がそう問い掛けた通り、水無月さんは対面には座らずに何故か俺の左隣に座る。

　その上で更に左腕に自分の体を密接させてきてもいた。

　全ての男が大嫌いだと教室で公言していたのでは？　と言う疑問を持ったから聞いたのだが……。

「この方が落ち着けるからだけど……ダメだったかしら？」

「いや、ダメってわけじゃ……」

　上目遣いでそう聞かれた俺は……そう答えるしかなかった。

　それが嬉しかったようで「ならいいじゃない」と言った後に水無月さんは大胆にも俺の左腕をギュッと両腕で抱きしめてきた。

　お陰で水無月さんの胸の感触がダイレクトに伝わってきて、俺の心臓がバクバクし始める。

　そんな状態に俺がなっているとは思ってもいないであろう水無月さんは呟く。

「さっきは助けてくれてありがとう、葵。

　葵が居なかったら私は今頃……」

「……当然のことをしただけだから、お礼は要らないよ。

　それよりも……何で男嫌いを公言している水無月さ…「未来って呼んで」…未来が俺の左腕に抱きついているの？」

　そう聞くと頬を赤らめてモジモジとしながら呟く。

　今更だし君付けから呼び捨てになっていることを問う気はない。

「全ての男が大嫌いだって公言した私を……葵は自らの危険を顧みず窮地に陥っていた私を救ってくれたわ。

　正直言って自分でもチョロ過ぎだと思ったけど……私は葵のことを１人の男性として意識したと同時に好きにもなってしまったの！

　もう一生離したくないし離れたくないって想ってしまったのよ！

　だからね葵！　わ、私と結婚を前提に恋人になって下さい！」

　……どうやら俺は入学してから１週間目にして【氷麗】の二つ名を持つ水無月 未来の氷を、いとも簡単に溶かしきってしまったらしいです───。