第2話 見て見ぬ振りは出来ない ※R7.4.5修正

 朝のホームルームが始まり、教卓に立つ男性担任の宮前みやまえ先生が連絡事項を述べる。


「皆、おはよう。

 今日の欠席者は……誰もいないようだな。


 さて連絡事項だが……今日は職員会議の都合で午前授業になる」


 これを聞いたクラスメイト達の誰もが表情を明るくさせる……隣にいる水無月さんを除いてだが。

 だけど声に出して騒ぎ出す人は誰もいない。

 その反応に一瞬だけ嬉しそうな表情をした宮前先生が続ける。


「午前授業と聞いても騒ぐ奴がいないのは、担任の俺としても嬉しい。

 だがその分、課題も用意しているから来週の月曜日の朝までにしっかりと取り組むように!」


 ま、そんなことだろうと思ったよ。

 課題……と聞いたクラスメイト達の誰もが落胆した表情をしていた。


「今日出した課題はそう難しいものじゃないから、明日忘れずに提出するように!

 忘れた場合は放課後にという形でやってもらうから絶対に忘れるんじゃないぞ?

 それが嫌なら絶対に忘れることのないようにな!


 では皆が課題を前の席の人に配るから順番に後ろの席の人に回していってくれ」


(いやいや、誰も楽しみにはしていませんよ? 宮前先生……。

 現に皆は苦笑いしてまっせ?)


 これは俺だけでなく誰もが思っていることだろう。

 ご丁寧に"楽しみに"を強調して言っているし……。

 そんな俺を含めた生徒達の心情を他所にニコニコ顔で課題を配り始める宮前先生。

 絶対に楽しみじゃない課題が前の席の男子から手渡される。

 そして課題が全員に行き渡ったのを確認した宮前先生が口を開く。


「課題は全員に行き渡ったようだな。


 ではこれで朝のホームルームを終了する。

 1時限目は移動教室だから遅れることのないようにな!」


 そう最後に告げてから宮前先生は颯爽さっそうと教室から出ていった。

 1時限目は家庭科の授業なので、家庭科室に移動する必要がある。

 なので俺も鞄から筆記用具と教科書を鞄から取り出して手に持ってから席を立ち、教室を出て家庭科室へと向かった。

 ちなみに隣の水無月さんはというと……既にいませんでした。


(何時の間に教室から出て行ったんだよ。

隣なのに全く気付けなかったぞ、俺……)



◇◆◇◆◇



 家庭科の授業を普通に受けた後、2時限目は数学、3時限目は社会、4時限目は英語と続いた。

 これらの授業を真面目に受け、そしてあっという間に時間が過ぎて放課後となった。

 勿論、授業中に寝ることなく普通に受けたよ?

 偏差値70と高い高校なだけに、真面目に受けてないと授業内容についていけないからね。

 入試も難しかったから尚更ね……。


 ホームルーム後の放課後となった教室内では「何処に遊びに行く?」や「何処で昼食を食べる?」等といった会話があちこちで繰り広げられていた。


 ……俺? 俺はボッチだから会話には参加してないし話し掛けられることもないよ?

 寂しくはないのかって? 自由に行動出来るから気にしませんとも。

 だから俺は鞄片手に席を立ち、騒がしい教室から出て正面玄関に向かった。

 正面玄関に着いて下駄箱からローファーを取り出して上履きと履き替え、上履きを下駄箱に仕舞ってから玄関を出る。


「さ~てと……折角だから普段あまり行かない渋谷に向かうか。

 そこで昼食を食べた後に少しフラついてから帰ることにしようかね~」


 そう決めた俺は正門を出て渋谷へと向かった。



◇◆◇◆◇



 歩くこと15分後。目的地である渋谷のハチ公前広場に着いた。


「久しぶりに来たけど……相変わらず人が多いこと多いこと」


 人の多さにゲンナリしつつ、目に付いた総合ショッピングモール【テリア】に向けて歩き始めた。

 だがその時、ハチ公銅像前で制服を着た1人の女子高生が誰がどう見ても軟派だろう、という男に絡まれてるのが俺の視界に入った。


「やっぱり何処にでも居るんだな、あんな奴が。

 ……って、よく見れば俺と同じ清水ヶ丘高校の女子生徒じゃないか?」


 そう口にしながら近くを通り過ぎようとする俺。

 その際にチラッと見た俺は思わず歩みを止めてしまう。

 だって軟派男に絡まれている女子生徒が俺の知っている……いや、隣の席に座る水無月 未来その人だったのだから。


(あまり目立ちたくはないが……見て見ぬ振りをするのもなぁ……。 仕方がねぇなぁ全く!!)


 そう思った時には俺の体は自然と動き出しており、未来と軟派男の間に割り込んだ上で口にしていた。


「おい、に何か用か?」



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